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アメリカの動物病院がソーシャルワーカーを雇用した2つの心理学的理由

投稿者:武井 昭紘

ソーシャルワーカーとは、生活の中で悩みや不安を抱えているヒトと関係を築きながら、問題解決のための援助をする専門家である。この職業は、小動物臨床とは縁が無いと認識されているケースが殆どだが、実は関係が深いことに気付かれていないということが実状である。この点について意識を改めて、ソーシャルワーカーを雇用する決断を下した動物病院が、アメリカのペンシルバニア州にあるPittsburgh Veterinary Specialty and Emergency Center(PVSEC)である。

今回のPVSECの決定における背景には、以下に示す2つの理由があり、日本を含めた「世界中の動物病院に共通する問題点」の解決にすることが目的となっている。

◆PVSECがソーシャルワーカーを雇った理由◆

1.獣医師の共感疲労の解消
共感疲労とは、ヒトや動物と接する機会の多い医療関係者に起こる心理的現象の一つである(医療関係者以外の共感疲労は除外する)。獣医師は、担当する動物が治癒を望めない病気(致死的経過を辿る症例など)に罹患している場合や回避できない安楽死を実施する場合において、ペットオーナーの心情を推察(共感)して、悲しみ・苦しみなどの複雑な感情を抱くことがある。そして、診察業務の中で、上記のような共感を繰り返すと、獣医師の精神が回復困難な状態まで落ち込む(疲労する)ようになる。

2.ペットの死に対するオーナーの罪悪感の緩和
オーナーの罪悪感とは、ペットの致死的経過または安楽死の決断後の心境変化を受け止めきれなかったり、経済的理由により治療の継続が不可能(安楽死の選択を回避できない)となった際に、生まれてくる自身を強く責める感情である。

 

PVSECでは、1日に数百件の重症例の診察、5~12件の安楽死が行われている。つまり、同動物病院にとって、「2つの理由」は何を置いても対策を講じなければならない課題であり、そのために、ソーシャルワーカーを必要としたのである。

また、アメリカ獣医師会(AVMA)では、6人に1人の割合で、獣医師が希死念慮に苦しんでいると試算している。このことからも、PVSECが取り組む獣医師およびペットオーナーの心理的ケアは、全ての動物病院で例外なく、必要であると考えられるため、日本の獣医療業界にも、動物病院専門のソーシャルワーカーが誕生することを期待したい。

動物病院専門のソーシャルワーカーは、獣医師および動物看護師、ペットオーナー、動物(獣医師を支援することで間接的に救う)の3者を一手にサポートできる存在となることのではないでしょうか。

動物病院専門のソーシャルワーカーは、獣医師および動物看護師、ペットオーナー、動物(獣医師を支援することで間接的に救う)の3者を一手にサポートできる存在となることのではないでしょうか。

 

参考ページ:

http://www.post-gazette.com/pets/2017/07/03/veterinary-social-work-pittsburgh-veterinary-specialty-emergency-clinic-ohio-township-pa-grief-stress-coping/stories/201706230027


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