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多剤耐性菌MRSAを進化させる懸念がある新たな耐性遺伝子が発見される

投稿者:武井 昭紘

現在の獣医療では、外耳炎、皮膚炎、膀胱炎などの治療として、抗生剤を多用する場合がある(耐性菌を意識されて、抗生剤の乱用しないように注意を払っておられる先生方も多いはずである)。その結果として、さらにペットオーナーの独自の判断による薬物療法の中断も要因となって、多剤耐性菌が検出されることが珍しくない現状となっている。その中で、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus、MRSA)は代表格であり、昨年のメディアでも死亡者数(1万4000人増)および医療費(1900億円増)の増加と報道されているため、乳幼児・高齢者などの免疫力が安定していないヒトや医療従事者にとって、大きな脅威である。

このMRSAが、より一層の進化を遂げることを示唆する研究がスイスのベルン大学から発表された。同大学は、乳房炎の牛および臨床的に健康とされる犬から採取したMacrococcus caseolyticus(皮膚の常在菌)の遺伝子解析を行い、メチシリン耐性遺伝子(mec)を検出した。しかし、ベルン大学が発見したmecは、既存の3種類のホモログ(mecA、mecB、mecC)とは異なるものであり、「4つ目」の新しいmec(mecD)であった。

さらに、mecDの研究を進めると、M. caseolyticusはDNAの組み換えを起こす酵素であるインテクラーゼ(チロシンリコンビナーゼファミリー)を有しており、mecDを持たない細菌へと耐性遺伝子を水平伝播させる可能性があることが明らかとなった。つまり、M. caseolyticusからMRSAへと、mecDが受け継がれる恐れがあるということである。そして、mecDには他の3種のホモログと異なる特徴があり、MRSAに対する抗菌作用を期待されていたセフトビプロールおよびセフタロリンに耐性を発揮するとのことである。

上記のことから、MRSAが医療技術を遥かに超えていく日は、遠くない未来であることが推測できる。よって、現時点でも、猛威を奮っているMRSAが進化をする前に、多剤耐性菌への対策を再検討する必要がある。新規の抗生剤の開発と新たな耐性を獲得しようとする細菌の「いたちごっこ」に終止符を打つためには、耐性菌に関する研究も、「現在では誰も思いついていない分野」を開発(進化)していくことが重要なのかも知れない。

抗生剤の新規開発とは異なる耐性菌との「新しい闘い方」を発想していくことが、全世界共通の課題となりつつあるのかも知れません。

抗生剤の新規開発とは異なる耐性菌との「新しい闘い方」を発想していくことが、全世界共通の課題となりつつあるのかも知れません。

 

参考ページ:

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28272476

https://www.nature.com/articles/srep43797#t1


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