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片側性の前十字靭帯断裂を発症した犬の疫学を明らかにした研究

投稿者:武井 昭紘

犬の前十字靭帯断裂(cranial cruciate ligament、CCL)は一次診療施設で遭遇する一般的な整形外科疾患で、通常は外科手術で治療られるとともに、激しい運動、強い衝撃、体重が重いことなどをキッカケに発症する関節のトラブルとして知られている。また、靭帯が断裂したまま治療をしない場合、半月板を損傷し、関節炎を起こしてQOLが悪化してしまうのだ。つまり、CCLの断裂に関与するリスクファクターや外科手術が適応されない要因などの疫学を明らかにし、当該疾患を予防するべく、リスクのある犬のオーナーに注意点を啓蒙することが重要だと考えられるのである。

 

冒頭のような背景の中、イギリスの大学らは、片側性のCCL断裂と診断された犬1000匹と、CCLが断裂していない犬50万匹の診療記録を解析する研究を行った。すると、以下に示す事項が明らかになったという。

◆片側性のCCL断裂を発症した犬の疫学◆
・6歳以上9歳未満の個体が発症しやすい
・不妊去勢手術を受けた個体が発症しやすい
・ペット保険に加入している個体で診断が下されやすい
・ロットワイラー、ビションフリーゼ、ウェスティの発症リスクが高い
・ペット保険に加入している個体は外科手術を適応されやすい
・20kg以上の体重がある個体は外科手術を適応されやすい
・9歳以上の個体は外科手術を適応されにくい(内科的管理になりやすい)
・CCL断裂以外に何らかの疾患を併発していると外科手術を適応されにくい

 

上記のことから、特定の年齢、特定の品種、去勢不妊手術を受けた個体でCCL断裂のリスクが高く、9歳以上の個体や併発疾患のある個体に外科手術が適応されない、あるいは、できないことが分かる。言い換えると、条件を満たす犬のオーナーにはCCL断裂に関する啓蒙・教育が必要だと言える。よって、今後、CCL断裂に気を付けた方が良い犬を飼育するオーナーを対象にして、啓蒙イベントやセミナーが開催されることを期待している。

ロットワイラー、ビションフリーゼ、ウェスティの遺伝子解析をすると、CCL断裂を治療・予防する新たな方法が見出せるかも知れません。

 

参考ページ:

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1090023323000035


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