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血漿中の乳酸脱水素酵素の濃度で猫の胸水の分類を試みた研究

投稿者:武井 昭紘

漏出液は心疾患に低タンパク血症。変性漏出液は肺葉捻転に乳び胸。滲出液は膿胸にFIP。体腔に溜まる液体は色々なヒントを獣医師に与えくれる。そのため、これらの液体を判別することは非常に重要で、小動物臨床の基礎にもなっているのだ。しかし、例えば滲出液と分かっただけでは確定診断に至らない。そこからまた鑑別診断が始まるのである。そこで疑問が浮かぶ。これらの液体を更に詳しく分析することで、鑑別(確定)診断ができないものだろうか。

 

冒頭のような背景の中、タイのチュラロンコン大学は、120匹を超える猫の胸水のサンプルを、乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase、LDH)の濃度に着目して解析する研究を行った。なお、同研究で解析した胸水の原因は、①心臓病、②膿胸、③腫瘍、④猫伝染性腹膜炎 (FIP)の 4つにグルーピングされたとのことである。そして、以下に示す事項が明らかになったという。

◆猫の胸水と胸水中LDH濃度◆
・主な原因は腫瘍であった(全体の約39%)
・血漿中LDH濃度と胸水中LDH濃度には相関関係がなかった
・主な性状は変性漏出液であった(約44%)
・変性漏出液におけるLDH濃度にはグループ間で有意差があった
・535 U/Lをカットオフ値にすると心疾患と他の疾患が鑑別できた
・641 U/Lをカットオフ値にするとFIPと他の疾患を鑑別できた

 

上記のことから、2つのカットオフ値を活用すると、心疾患、FIP、他の疾患が区別できることが窺える。よって、今後、猫の胸水に関する診断チャートまたはアルゴリズムに胸水中LDH濃度を組み込むための研究が計画され、当該疾患のより早期な診断とより早期な治療が実現することに期待している。

変性漏出液の発生と原因には関連性がなかったとのことです。

 

参考ページ:

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2022.1044192/full


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