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低血糖を伴ったふらつきを呈した9歳齢のブリタニー・スパニエル1例

投稿者:武井 昭紘

フランスはブルターニュ地方原産の中型犬、ブリタニー・スパニエル(9歳齢、不妊メス)が、脱力感と躓くことを主訴に動物病院を訪れた。どうやら、原因は重度の低血糖症であった。つまり、年齢(成犬であること)を考慮すると、鑑別疾患にインスリノーマが挙がってくるのが当然であった。しかし、インスリンとグルコースの比が示す数値は「それ」を否定し、代わりにエコー検査とCT検査にて左腎に大きな腫瘤があること、右腎に転移を疑う所見があることが判明した。一体、彼女の身に何が起こったのだろうか。

血糖値を上げるために、グルカゴンが投与される。だが、残念なことに反応はなく、低血糖は続いていた。次の一手として、左腎が摘出された。病理組織検査によって、腎芽腫という診断が下った。また、この病変を免疫学的に解析すると、実に50%の腫瘍細胞に抗インスリン様成長因子-2 (IGF-2) 抗体が結合することが分かった。外科手術後、低血糖は解消した。

症例を発表したアメリカおよびイギリスの獣医科大学らは、『腎芽腫、つまり膵島細胞由来ではない腫瘍細胞が分泌するIGF-2によって生じた重度かつ難治性の低血糖症を犬で初めて報告した』と述べる。果たして、同様の症例は他にも存在するのだろうか。もし仮に、皆様が担当する犬に低血糖症と腎臓に限らず腫瘍性疾患を認めた場合には、インスリンまたはIGF-2に関連した精査を検討してみると光明が指すかも知れない。

本症例には化学療法も適応されております(ビンクリスチン、ドキソルビシン)。

 

参考ページ:

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2023.1116846/full


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