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動物倫理の観点から猫の突然死に対する病理検査結果の正当性を問うコペンハーゲン大学

投稿者:武井 昭紘

2022年冬。メインクーンの血を引く猫(12歳齢、去勢オス)が突然死をした。彼は完全室内飼育でワクチンも受けており、獣医師から処方されたキャットフードを食べ、健康そのものだった。また、定期的に動物病院を訪れ、健康診断に臨んでいたという。加えて、オーナーは主張する。中毒を起こすような物質に触れたことは考えられないと。そして、原因を追求するために病理検査が行われた。診断は肥大型心筋症。一次診療でも良く遭遇する猫の心臓病だった。しかし、のちに関係者の「嘘」が発覚した。その嘘は、デンマークの有名な大学、コペンハーゲン大学が動物倫理を脅かす重大な問題と指摘する程の事案だった。果たして、誰が嘘を付いていたのだろうか。

 

 

『これでは、あまりに救われない。』

予防も定期健診もして、獣医師からフードまで処方してもらって、原因も分からずに突然死をする。オーナーの心中は如何ばかりか。想像をするだけで悲しい。剖検に携わるも、これといって死因を見つけられなかった病理医は思慮する。せめて、死因だけでも特定できていれば。彼(猫)は高齢。そして、突然死。中高齢の猫が突然死をして、且つ、一般的に「あり得る」病気と言えば・・・。

病理検査の結果を肥大型心筋症と記載した。そこに悪意は無い。オーナーの心情を慮っての善意の嘘だった。

 

 

病理医は事実に忠実であるべき。ましてや、存在しない死因を作り出すのは以ての外。お金を出して病理検査を依頼したオーナーに事実と異なることを伝えるのは誠実さに欠ける。誹謗中傷に関係者が晒されないように匿名性を保ちつつ、動物倫理に関する大学のサイトでは、そのような文章が目立つ。読者の皆様はどう感じるだろうか。病理医の言う善意の嘘に正当性はあるだろうか。「原因は分からない」という事実を突き付けられる方がオーナーは苦しむだろうか。大学は今、皆様からの意見を求めている。思う事がある方は自身の見解を大学に述べて頂けると有り難い。そして、その結果、動物倫理という学問・研究分野が成熟することを願っている。

死の真相が知りたいとしてオーナーが臨んだ病理検査ならば、「死因は掴めなかった」と事実を報告することが望ましいと筆者は思います。

 

参考ページ:

https://static-curis.ku.dk/portal/files/347973532/cvj_02_2023_111.pdf


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