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クッシング症候群の犬に起きる細菌尿と臨床症状について調べた研究

投稿者:武井 昭紘

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)に罹患した犬は易感染性となり、細菌尿を呈することがあるとされている。故に、それが原因で起きる尿路疾患を防止するため、彼らに抗生剤が投与されることが多い。しかし、耐性菌の出現を危惧した抗生剤使用のガイドラインには、症状の無い、いわゆる無症候性細菌尿には抗生剤を使うべきではないと記載されている。では、果たして、臨床現場の実状は一体どうなっているのだろうか。そして、無症候性細菌尿の症例に抗生剤を使うと何が起きるのだろうか。それを明らかにすることは、抗生剤の適正使用を推進する上で大変に重要なことだと思われる。

 

そのような背景の中、スイスのチューリッヒ大学は、クッシング症候群の犬の尿検査結果と治療歴を統計学的に解析する研究を行った。すると、以下に示す事項が明らかになったとのことである。

◆細菌尿を呈するクッシング症候群の犬に対する抗生剤療法の実態◆
・160件を超える症例を解析
・18%が細菌尿を呈していた
・そのうちの80%以上が無症状であった
・追跡可能な症例の90%以上が抗生剤で治療されている
・その期間は2-4週間であった
・治療を受けた症例の約80%は培養結果が陰性に転じた
・20%は細菌尿が持続した
・「持続した」症例の尿には、より強力な耐性菌が出現した

 

上記のことから、抗生剤療法によって耐性菌が出現するリスクが高まることが窺える。そこで、読者の皆様に問いたい。このリスクを無症状の犬に背負わせることは、どのように物事を捉えると正当化できるだろうか。抗生剤を使った結果、より強力な耐性菌が出現したら、別の抗生剤を選び直す。この無限ループにゴールはあるだろうか。本研究が訴える事実を踏まえて、改めて抗生剤の適正使用について考えて頂けると幸いである。

性別と手術歴(去勢・不妊)は、細菌尿の有無と関連していなかったとのことです。

 

参考ページ:

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32618567/


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