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眼球が突出した犬における予後(視力が回復する可能性)を統計学的に解析した研究

投稿者:武井 昭紘

犬の眼球は、本来、頭部を構成する骨で象られた眼窩という空間に綺麗に収まっていることが通常なのだが、外傷、交通事故、腫瘍など、様々な原因をキッカケにして、眼窩から飛びだし、吻側方向へと突出してしまうことが知られている。また、この現象は、「眼球突出」と呼ばれる救急疾患の一つに挙げられており、視力検査は後日へと回し、初診時には、迅速な応急処置(眼球を眼窩に収めて眼瞼を縫合する)を最優先に施すことが重要であるとされている。

 

と、ここまで聴くと、新人獣医師の中には、
『視力が回復するとしたら、いつまでに?』
『視力が回復する確率は?』
『原因と眼球が突出していた時間と視力の回復に関係性はある?』
などの疑問を抱くヒトが少なくない印象を、筆者は受けている。

 

そこで、本稿では、これらの疑問を解決するための参考として、イスラエルのヘブライ大学が発表した研究を紹介したいと思う。なお、同大学によると、眼球突出を主訴に動物病院を訪れた犬43例を対象にして診療記録を解析したところ、以下に示す事項が判明したとのことである。

◆眼球突出を呈する犬の予後◆
・応急処置から18日前後で、約30%の症例の視力が回復する
・犬種、原因、眼球が突出していた期間、投与した薬物の何れも視力が回復する可能性と相関していない
・初診時の瞳孔反射の有無は、その後の視力の回復を有意に左右する
・眼科専門医による診察と応急処置を行った方が、視力が回復する確率が高まる

 

上記のことから、冒頭に記した通り、初診時には原因や視力の有無を丁寧に探ることよりも、使用する薬剤を慎重に検討することよりも、応急処置を最優先に行うことが重要であることが言えるのではないだろうか。よって、新人獣医師(眼科診療に詳しくない獣医師を含む)が眼球突出に陥った犬を診察する機会に遭遇した際には、瞳孔反射を素早く確認して、応急処置に慣れた獣医師(上級獣医師または近隣の眼科専門医)に上診を依頼することが望ましいものと考えられる。

オーナ―から視力が回復する確率について質問された場合には、今回紹介したデータも参考にして頂けますと幸いです。

 

参考ページ:

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31566874


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