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犬の潜在精巣における「ある」mRNAの発現を調べた遺伝子学的研究

投稿者:武井 昭紘

停留精巣(潜在精巣)は、雄性生殖器である精巣が陰嚢内に収まらない状態を指す言葉で、小動物臨床において、成長期の犬に比較的よく認められる現象として知られている。また、この状態に陥った精巣は、正常のものよりも小さく、弾力性を失った組織として存在していることが多く、いわゆる、「未発達」のまま体内に残っており、陰嚢内にある精巣とは「何かが違う」という印象を強く受ける。

 

2019年4月、この相違点に着目した遺伝子学的研究が発表された。

それは、イタリアのフェデリコ2世・ナポリ大学らによるもので、潜在精巣を有する犬の精巣上体におけるウロコルチン(Urocortin、UCN、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン[CRH]関連ペプチド)および、その受容体(CRHR1、CRHR2)のmRNAの発現を調べており、臨床上健康な個体に比較して、潜在精巣を有する犬の精巣上体にて、UCNとCRHR2がより多く検出されるという結果が得られたとのことである。

 

上記の事実とともに、UCNが雄性生殖器の機能に影響を与える物質であることを考慮すると、本研究では、UCNおよびCRHR2が犬の潜在精巣に深く関与している可能性が示されたものと思われる。よって、今後、UCNおよびCRHR2の発現量と潜在精巣の位置(皮下、腹腔内)の関連性や両遺伝子の発現をコントロールすることによる潜在精巣の予防など、様々な検証がなされ、犬の潜在精巣のメカニズムが詳細に解明されていくことを願っている。

今回紹介した2つの遺伝子(UCNおよびCRHR2)の発現を利用して、将来的に、潜在精巣予測マーカーが確立されることに期待しております。

 

参考ページ:

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31004535


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