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全ての腫瘍性疾患に効果を示す薬剤の開発へ繋がる細胞増殖因子の研究

投稿者:武井 昭紘

ヒトおよび小動物臨床において、腫瘍性疾患の内科療法では、ガン細胞の増殖を抑える薬剤(抗ガン剤)を使用することがあるが、正常細胞への副作用が出てしまうことが大きなデメリットとなっている。そして、主作用(ガン細胞増殖抑制効果)よりも、副作用(消化器症状や骨髄抑制など)が強く出てしまうと、治療の中断を選択せざるを得ない状況となる場合がある。

そこで、アメリカのロチェスター大学は、ガン細胞の増殖を特異的に抑制する新薬を開発するための研究を行った。そのために、同大学は、「全てのガン細胞に関与する増殖因子」として核酸分解酵素(エンドヌクレアーゼ)であるTudor-SNに着目した。このTudor-SNは、細胞の増殖を調整している遺伝子(microRNAs)を分解する作用があること、ガン細胞に豊富に発現しているという特徴があることが知られている。つまり、理論的には、Tudor-SNの作用によりmicroRNAsが分解された細胞は、増殖能を制御できなくなり、際限なく細胞数を増加させていくことになる(腫瘍化)。そして、今回の研究では、CRISPR-Cas9(任意のDNA配列を切断する技術)を用いてヒトの細胞からTudor-SNを除去すると、細胞分裂のG1期からS期に移行するために必要なmRNAをダウンレギュレートするmicroRNAsが増えて、細胞増殖を抑制できることが明らかとなっている。

上記のことにより、更なる研究が進められ、Tudor-SNを阻害する薬剤が開発および臨床応用されることとなれば、ガン細胞の増殖を効率的に抑制できる可能性があると考えられる。また、今後、既存の全てのガン細胞(ヒトおよび動物)からTudor-SNの「病的な発現」を確認できれば、1種類の薬剤が、全ての腫瘍性疾患を治療するという医療(獣医療)が実現することになるかも知れない。

1種類の薬剤で治療できる疾患が増えることは、人医療の医療費を削減する効果があると同時に、動物病院の経費削減と薬剤管理の簡素化というメリットもあると思います。

1種類の薬剤で治療できる疾患が増えることは、人医療の医療費を削減する効果があると同時に、動物病院の経費削減と薬剤管理の簡素化というメリットもあると思います。

 

参考ページ:

http://science.sciencemag.org/content/356/6340/859


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