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世界各国170名以上の神経科医を対象にした犬猫の前庭疾患に関するオンライン調査

投稿者:武井 昭紘

一次診療施設でも遭遇する犬猫の前庭疾患は特発性であることが珍しくなく、その特発性、いわゆる原因不明と断定するためにも、何らかの原因を掴むためにも、様々な検査を駆使する必要があるとされている。しかし、この検査の内容には統一された見解がなく、正書によっても異なるのが現状なのだ。

 

そこで、ドイツの大学らは、世界各国の神経科医170名以上を対象にオンライン調査を実施して、犬猫の特発性前庭疾患(Idiopathic vestibular syndrome、IVS)の定義、診断、そして治療に至るまでの実状を明らかにする研究を行った。すると、以下に示す事項が明らかになったという。

◆犬猫のIVSに関する見解◆
・定義、診断、治療は世界的に共通していた
・ただしヨーロッパでは画像診断の頻度は低く、耳鏡検査の頻度が高かった
・定義は「あらゆる年齢の猫および高齢の犬が発症する急性・甚急性の末梢性前庭障害」であった
・また痛みを伴わないこと、回復が見込めることも定義に含まれていた
・診断では耳鏡検査、神経学的検査、血圧測定、甲状腺機能検査を含む総合的な血液検査が重視されていた
・除外診断としてMRI、脳脊髄液検査が利用されていた
・治療ではマロピタント(1mg/kg SID)の使用が一般的であった
・次いで静脈輸液(2~3mL/kg/hr)が続いた(脱水の補正によって内耳への血流を確保する目的)
・制酸剤(オンダンセトロン)、ビタミン剤、ステロイド剤の使用は少数派だった
・眩暈の治療薬ベタヒスチンおよび神経保護効果のあるプロペントフィリンの使用も少数派だった
*注意:吐き気を抑えるマロピタントよりオンダンセトロンの方が強いという報告あり
*ベタヒスチンとプロペントフィリンの効果は疑問視されている

 

上記のことから、神経科医の見解に世界共通のものが存在していることが窺える。よって、犬猫のIVSに悩める獣医師は、耳鏡検査、神経学的検査、血圧測定、総合的な血液検査を必須とし、それでも原因が掴めない場合はMRIおよび脳脊髄液検査で除外診断を行って、当該疾患に辿り着くことをお薦めする。また、IVSの治療に関しては、獣医師個々人でステロイド剤やビタミン剤の必要性を再考し、静脈輸液を行っていない場合は、それを試みて頂けると幸いである。

筆者の経験上、「検査で異常が見付からないこと」を恐れてオーナーに検査が薦めにくいと思っている新人獣医師は珍しくないですが、特発性の病気では「検査で異常が見付からないこと」、つまり「除外診断をすること」が決め手になることがありますので、その旨を忘れないようにしましょう。

 

参考ページ:

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2023.1263976/full


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