ニュース

癌細胞を攻撃するT細胞を活性化するモノクローナル抗体を犬に投与した1例

投稿者:武井 昭紘

細胞が機能を失い死んでいく過程に関与し、T細胞の機能を抑制するようにも働くprogrammed cell death-1(PD-1)に対するモノクローナル抗体は、PD-1を発現するヒトの癌に有効だとされている医薬品の一つである。また、このPD-1抗体は臨床試験レベルで、犬の癌にも有効だと報告されているのだ。つまり、次の段階は、実際の症例で「その効果」を立証することなのである。

冒頭のような背景の中、中国農業大学らは、左側頚部に腫瘤が発生したボーダー・コリー(11崔齢、去勢オス)に 抗イヌPD-1モノクローナル抗体を投与した1例を報告した。なお、彼が抱えた腫瘤は唾液腺に由来の可能性があり、CT検査にで咽頭部の軟部組織に浸潤していることが確認され、病理検査にて腺癌と診断されている。

治療から2ヶ月後、腺癌は部分的に寛解をし、その状態が6ヶ月継続した。しかし、残念ながら、本症例は安楽死となった。今回発覚した腺癌とは関係性の無い理由だったという。生存期間は316日。QOLが著しく悪化する(少なくとも筆者の経験では良いイメージは無い)咽頭部の癌で1年近く生きたことになる。

大学らは、『犬の腺癌においてPD-1の機能を阻害する治療の効果を世界で初めて報告した』と述べる。果たして、抗イヌPD-1モノクローナルは外科手術を補助する、あるいは、外科手術に代わる治療法となるか。今後、同医薬品が奏効した症例の報告が数多くなされ、犬の腫瘍科診療が発展を遂げることを期待している。

猫の腺癌に対するPD-1モノクローナル抗体の効果も検証されると、新たな見解が得られるかも知れません。

 

参考ページ:

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2023.1144869/full


コメントする