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「cool first, transport second」~先に冷やして搬送はその次という熱中症治療の大原則に関するイギリスの調査

投稿者:武井 昭紘

「cool first, transport second」。

敢えて日本語に訳すると「先に冷やして搬送はその次」と表現できるこのフレーズは、ヒトや犬の熱中症を治療する上での大原則として知られている。つまり、熱中症を起こしたヒトや犬を目の前にした場合、病院への搬送(transport)を優先するのではなく、現場での冷却(cool first)を第一に考えることが非常に重要だとされているのだ。では実際のところ、小動物臨床では大原則に則って治療が進められているのだろうか。

 

冒頭のような背景の中、イギリスの王立獣医科大学(Royal Veterinary College、RVC)は、過去3年間(2016年~2018年)にて一次診療施設を訪れた94万匹以上の診療記録(動物病院としては880軒以上)を用いて、犬の熱中症治療の現状を調べる研究を行った。すると、850例以上のデータが集積され、以下に示す事項が明らかになったという。

◆イギリスにおける犬の熱中症治療の現状◆
・大原則を遵守していた例は全体の約22%に留まった(4分の1にも満たない)
・大原則が遵守された症例の24%のみが推奨された冷却方法(体温よりも低い水で)でケアされていた
・症例の約51%では濡れたタオルを体に当てる治療が実施されていた(以前は一般的であったが現在は非推奨)
・研究対象の3年間で推奨された冷却方法を適応される症例の数は増えていなかった
*推奨された冷却方法:体温よりも低い水の使用(水に犬の体を浸けることがベスト)、気化熱の利用(風、扇風機、エアコンで冷やす)

 

軽度の熱中症症例の生存率が97%である一方で、重度の熱中症(熱射病)のそれは僅か43%に低下する厳しい現実も加味して、そして、今回明らかになった事実を念頭に、大学は『cool first, transport second』を遵守するように訴える。また、推奨された冷却方法を強く薦めると述べる。読者の皆様は犬の熱中症とどう向き合っているだろうか。もし見直す点がある場合は、RVCの提案に耳を傾けて頂けると幸いである。

若くて健康な犬の熱中症では水に浸ける治療を、病気を持つ、あるいは、中高齢の犬の熱中症では体に水をかけて気化熱を利用する治療を第一に検討しましょう。

 

参考ページ:

https://www.rvc.ac.uk/vetcompass/news/the-rvc-urges-owners-of-hot-dogs-to-cool-first-transport-second


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