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猫の乳腺腫瘍に関する疫学とリスクファクターを調べた研究

投稿者:武井 昭紘

筆者の知る限り20年以上の昔より、メスの猫が発症する乳腺腫瘍は一般的に不妊手術を受けていない個体に多いと言われている。また、中高齢であること、特定品種であることもリスクになると考えられているのだ。では実際のところ、現代において、これらの条件に合致した猫たちは乳腺腫瘍を患っているのだろうか。仮に以前と様相が変わっている点があるならば、当該疾患の情報をアップデートする必要がある。

 

冒頭のような背景の中、イギリスの王立獣医科大学(Royal Veterinary College、RVC)および動物病院らは、大規模臨床データベースVetCompassに登録されたメス猫25万匹以上(動物病院にして880軒以上)を対象にして、彼らの診療記録から乳腺腫瘍に関する疫学とリスクファクターを特定する研究を行った。すると、以下に示す事項が明らかになったという。

◆ メス猫の乳腺腫瘍に関する疫学とリスクファクター ◆
・乳腺腫瘍が疑われる症例が2800例以上あった
・そのうち本研究が定義する乳腺腫瘍は270例であった
・発生率は10万匹あたり104匹であった(約0.1%)
・動物病院ごとの発症リスクに有意差があった
・診断後の生存期間は中央値で18.7ヶ月であった
・交雑種より純血種で発症リスクが高かった
・主要な品種の中でペルシャのリスクが高かった
・不妊手術歴は発症リスクと関連していなかった
・8歳齢以上で発症リスクが有意に高くなった
・ペット保険に加入している猫で乳腺腫瘍と診断される可能性が高かった

 

上記のことから、本研究では不妊手術をしていない猫における乳腺腫瘍のリスクは手術に臨んだ猫と変わらないことが分かる。これは、何を意味しているのだろうか。動物医療の発展に伴ったペットの高齢化と関係があるのだろうか。高齢化が進めば、全ての猫が乳腺腫瘍を含めた腫瘍の発症リスクを等しく抱えるということだろうか。今後、猫の年齢層別に不妊手術歴と乳腺腫瘍の発症との関連性を突き詰める研究が進み、当該疾患に関する予防医学が進化を遂げることに期待している。

本研究の主要な品種は、ブリティッシュ・ショートヘア、バーミーズ、メインクーン、ラグドール、シャム、ペルシャだったとのことです。

 

参考ページ:

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jsap.13598


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