外科手術には押し並べて炎症が付き物である。それは、メスで切り、鉗子で挟み、針と糸で縫って繰り返し外的な刺激を生体に加えるのだから当然だと言える。しかし、炎症の程度は軽度であればある程に望ましいとも言えるだろう。この考え方は、取り分け言葉の通じない動物では、また健康な動物に施す不妊・去勢手術では大変に重要なことである。ならば、如何にして術後の炎症を軽減させるのか。様々な術式を比較検討して、最良の手を模索することが獣医学の課題である。
冒頭のような背景の中、スペインの大学らは、①通常の開腹術または②腹腔鏡下によって卵巣摘出術を受けた犬、それぞれ25匹ずつを対象にして、彼らが経験する炎症の程度を評価する研究を行った。なお、同研究では、好中球/リンパ球比(neutrophil-to-lymphocyte ratio、NLR)、血小板/リンパ球比(platelet-to-lymphocyte ratio、PLR)、全身性炎症に関する指数(systemic inflammatory index、SII)を指標にしており、各項目を手術1時間前(T0)、術後数時間(T1)、術後6〜8時間(T2)、術後20〜24時間(T3)にて算出している。すると、以下に示す事項が明らかになったという。
◆①または②によって不妊手術を受けた犬に起きる炎症◆
・手術時間は①よりも②で長かった
・炎症のピークはT2にあった
・T0およびT1のPLRは①より②で有意に高かった
・T2のNLR、PLR、SIIは①より②で有意に高かった
・T3では有意差はなかった
上記のことから、意外かも知れないが、理論的には術野が小さくなる②の方が炎症の程度が強くなる印象を受ける。これは、手術時の視野が狭いといった腹腔鏡特有のデメリットと関連しているのだろうか。今後、更なる検証が進み、炎症を軽減する術式について議論が深まることを期待している。
参考ページ:
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37043624/