動物用医薬品の臨床研究を巡り、農林水産省が都道府県や日本獣医師会などに、医薬品医療機器法に違反しない適正な研究の基準を示す通知を出したことが分かった。国が動物用の臨床研究のルールを定めるのは初めて。
記事によると、臨床研究を巡っては、鳥取大農学部共同獣医学科の男性教授(3月末に退職)が2014~21年度、犬猫用がん治療薬の未承認の試薬を全国の延べ791の動物病院に有償提供し、ペットなどに投与されていたことが読売新聞の3月26日の報道で明らかになっている。
提供先が多数で長期間に及ぶ上、研究に必要な症例報告書が一部で提出されておらず、農水省は読売新聞の取材に「薬機法が禁じる未承認薬の販売にあたる恐れがある」と指摘。一部の動物病院がホームページに研究ではなく、正規の治療薬と誤解しかねない記載をしていたという。しかし、臨床研究法で国への届け出が義務づけられている人間用と違い、動物用にはルールがなく、研究は農水省が把握しないまま21年3月末で終了している。
農水省は通知(今年4月20日付)で、臨床研究で未承認薬を使う場合に薬機法違反とされる範囲がこれまで不明確だったと言及。「臨床研究が無秩序に実施され、国民の理解が得られなくなるような事態が起きた場合には、研究の実施自体が困難になる恐れがある」との認識を示した。
その上で、未承認薬を提供しても薬機法に違反しない「妥当な臨床研究」と認めるための八つの要件を提示。「中立的な立場で研究の審査を行う倫理審査委員会などが計画の妥当性を確認」「症例数や未承認薬の使用回数などの実施方法や期間が合理的に設定され、提供量が必要な範囲」「飼い主の費用負担は、営利目的とみなされない範囲内」等すべての要件を満たす必要があるとしている。
また、研究の透明性を確保するため、飼い主が確立した治療法と誤解しないよう説明して同意を得ることや記録の適切な保管なども求めた。薬機法の適用で判断に悩む場合、農水省への相談を呼びかけている。通知は都道府県のほか、日本獣医師会、公益社団法人「日本動物用医薬品協会」に出した。
獣医師の田村豊・酪農学園大名誉教授は「曖昧だった臨床研究の適切な枠組みが示され、創薬現場としては研究しやすくなった」と話した。動物用医薬品のコンサルティング会社を経営する氏政雄揮・獣医師は「基準が明確化された意義は大きい。さらに法整備されれば、臨床研究の透明性が高まり、研究ニーズも増えるのでは」とする。
https://www.yomiuri.co.jp/national/20230512-OYT1T50120/
<2023/05/12 読売新聞オンライン>