非ステロイド性抗炎症薬 (NSAID) による中毒は、犬に起きる中毒の代表格であり、且つ、胃腸や腎臓に障害を与えることから、その治療法についての研究が盛んに行われている。中でも、脂質の輸液や血漿交換療法(therapeutic plasma exchange、TPE)は比較的新しいもので、効果のほどに注目が集まっているのだ。そこで疑問が浮かぶ。これらの治療は実際のところ、効果があるのだろうか。消化管粘膜の保護、胃洗浄、通常の静脈輸液に肩を並べるくらいに利用できるものなのだろうか。
冒頭のような背景の中、欧米の獣医科大学らは、NSAID中毒(イブプロフェン、カルプロフェン、ナプロキセン)に陥った犬400匹以上の診療記録を解析する研究を行った。すると、以下に示す事項が明らかになったという。
◆NSAID中毒に陥って輸液療法や血漿交換療法を受けた犬の転帰◆
・腎または中枢神経に毒性を発揮する量のNSAIDを誤食してTPEを適応した犬では急性腎障害の発生が有意に少なかった
・TPEを適応した犬では神経症状が強く現れた(同療法を受けた犬の全てで初診時に神経障害の兆候あり)
・脂質の輸液を受けた症例に比べて通常の輸液を受けた症例ではCREの最大値が有意に高かった
・初診までの経過日数の増加、初診時のCREおよびPCVの上昇、催吐処置を実施しないことは重症度の高さと関連していた
・カルプロフェンに比較してイブプロフェンによる中毒の方がより重症になりやすかった
上記のことから、犬に起きるNSAID中毒の転帰は良好である中で、脂質の輸液やTPEは腎不全のリスクを軽減することが窺える。しかし一方で、神経障害に対する治療法については改善の余地があると言える。よって、今後、神経症状を抑え、あるいは、解消する方法に関して議論され、NSAID中毒の治療法がより強固に確立されることを期待している。
参考ページ:
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36453531/