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膵特異的リパーゼが上昇している犬の特徴および臨床症状に関する統計学的研究

投稿者:武井 昭紘

膵特異的リパーゼは、犬の膵炎の診断に利用されている有用なマーカーである。しかし、この一つの検査項目で膵炎と診断することは尚早であり、他の臨床検査所見と合わせて、総合的に判断することを望ましいと言われている。では実際のところ、膵特異的リパーゼが一定の基準を上回る症例において、一体どのような臨床検査所見が見られるのだろうか。

 

冒頭のような背景の中、アメリカの獣医科大学らは、獣医師などの動物利用関係者にオンラインで聴き取りを実施し、膵特異的リパーゼが400µg/L以上を示す犬に関する診療データを集積する研究を行った。すると、170件の回答が得られ、以下に示す事項が明らかになったという。

◆膵特異的リパーゼが上昇している犬の特徴および臨床症状◆
・71%の症例には、過去12ヶ月以内における消化器のトラブルの病歴があった
・主な臨床症状は、食欲不振(62%)、下痢(53%)、嘔吐(49%)であった
・腹痛は32%の症例のみに認められた
・24%の症例が肝臓および胆道系の異常を併発していた
・5~8%の症例に内分泌疾患があった
・膵特異的リパーゼが上昇する前のフードは成犬用のメンテナンス(65%)、犬用のオヤツ(40%)、ヒトの食べ物(29%)が一般的であった

 

上記のことから、多くの症例が過去に消化器のトラブルを抱えていることが窺える。一方で、新人獣医師の中で「膵炎とイコールで結び付く嘔吐」は、約半数の症例にしか見られないこと分かる。また、その他の異常所見や今までの食餌についても、全ての症例に共通していないことが判明した。よって、冒頭でも述べたが、「膵炎と完全にイコールで結び付く所見は無い」ことを念頭にして、様々なヒント(主訴や臨床検査所見)から総合的に判断を下すことが望ましいと思われる。

犬の膵炎の診断では、嘔吐だけを手掛かりにするのは辞めましょう。

 

参考ページ:

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35739917/


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