ニュース

PRAの犬に生じる網膜変性の前兆について観察した研究

投稿者:武井 昭紘

進行性網膜萎縮症(progressive retinal atrophy、PRA)に伴う臨床症状は、ある日突然にして、愛犬を襲う。おそらく、それがオーナーから見た印象であろう。しかし、実際は、当該疾患の症状は徐々に進行しているとされている。つまり、委縮して視力を失うまで、網膜の構造は「変化している」と考えられるのだ。では、その変化とは一体、どのようなものであろうか。

冒頭のような背景の中、北南米の大学らは、①ウィペット、②ジャーマン・スピッツ、③パピヨンの交雑種を対象にして、彼らの網膜を観察する研究を行った。なお、本研究において、①および②はPRAを発症した個体(それぞれ5匹、8匹)、③はPRAを発症するとともにCNGB1遺伝子に変異を持っている個体(20匹)である。すると、①の80%、②の約38%、③の75%に、限局的に発生した水疱を伴う網膜剥離が複数現れることが判明したという。また、この網膜剥離という現象は、明らかな網膜変性が起きる前に出現し、変性が進行するにつれて目立たなくなることが分かったとのことである。加えて、1例だけではあるものの、CNGB1遺伝子に変異を持っているパピヨンの交雑種に遺伝子増強療法(変異遺伝子を補うように正常な遺伝子を罹患犬に導入する治療法)を適応すると、水疱の形成が妨げられることも確認された。

上記のことから、網膜に出現する水疱と、それに続発する網膜剥離が、PRAの発症に関与していることが推察できる。よって、今後、遺伝子増強療法も候補として「網膜における水疱形成を防ぐ」治療法を確立する研究が進み、PRAが完治できる病気になる日が訪れることを願っている。そして、この水疱の有無をチェックする検査法が、PRAを早期発見する手技として普及することを期待している。

網膜の観察は、検眼鏡と、光を用いて物体の内部構造を解析するSD-OCTによって実施されております。

 

参考ページ:

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34708922/


コメントする