猫からヒトへ新型コロナウイルスが伝播したと思われる1例

投稿者：武井昭紘

昨年の8月8日。
タイの首都バンコクから南へ900km。ソンクラーと呼ばれる県に位置するプリンス・オブ・ソンクラー大学の付属病院に、新型コロナウイルス（SARS-CoV-2）の感染者2名が搬送された。感染拡大による医療逼迫もあったのだろうか、バンコクでは充分な治療ができないことが理由だった。そして、その搬送から隔離病棟への入院が決まるまで、救急車のベットに横たわる彼らの傍らには猫が居たという。

8月10日。
猫は、同大学の付属動物病院を訪れた。オーナーらと同じくSARS-CoV-2の感染が疑われ、検査をするためだ。検査は、3名の獣医師が担当した。使い捨ての手袋にN95マスクを装備して。と、この時、猫がくしゃみをした。

3日後。
獣医師の一人が発熱。手袋とマスクはしていたものの、顔や眼を守るフェイスシールドおよびゴーグルは使っていなかった。

後に、オーナーら、猫、獣医師から検出されたSARS-CoV-2の遺伝子配列は疫学的に関連していることが判明した。これを受け、プリンス・オブ・ソンクラー大学は、『SARS-CoV-2に感染した猫からヒトへ同ウイルスが移った可能性がある』と発表した。加えて、『フェイスシールドやゴーグルの着用は重要な感染防御対策になる』と訴える。果たして、猫からヒトへの伝播は稀なことなのだろうか。あるいは、無症状の感染者も多いことを考慮すると、潜在的には存在しているのだろうか。今後、更なる調査・報告がなされることに期待している。そして、獣医師にとって安心・安全な診療現場の防疫対策が明確になることを願っている。