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片側椎弓切除術を受けた犬の不安に対する環境エンリッチメントの効果

投稿者:武井 昭紘

違和感や痛みは不安によって増幅される。もしも、この理論が正しければ由々しき事態である。なぜならば、何らかの病気に苦しんだ犬や猫が外科手術に臨んで、環境(動物病院、見慣れないスタッフ)、麻酔、手術自体から不安を感じ、今度は痛みに苦しんでしまうからだ。無論、手術なのだから痛みは伴う。しかし、百歩譲って「そう」であったとしても、不必要な痛みを避けられるならば避けたい。では如何にして、それを実現するか。そこが問題である。

 

冒頭のような背景の中、テネシー大学は、同じ麻酔プロトコルで椎間板ヘルニアに対する片側椎弓切除術を受けた犬20匹を対象にして、不安を緩和させる環境エンリッチメントの効果を検証する研究を行った。なお、同研究では犬を2つのグループに分け、①一方はホワイトノイズ(赤ちゃんを寝かしつけるとも言われているテレビの砂嵐のような音)とクラシック音楽が流れる集中治療室で、②他方は静かな部屋で管理する形式が採用されている。また、②では環境エンリッチメントとして、犬を安心させるフェロモン製剤やエッセンシャルオイルを使い、ヒトとの積極的な交流、フードの入ったオモチャも提供されている。加えて、痛みの程度はmodified Glasgow Composite Pain Scale (mGCPS) で評価され、一定スコア以上の犬にはオピオイド(メサドン)が、不安行動が観察された犬には抗不安薬(トラゾドン)が投与されている。すると、以下に示す事項が明らかになったという。

◆片側椎弓切除術を受けた犬の不安に対する環境エンリッチメントの効果◆
・mGCPSのスコアに有意差はなかった
・①に比べて②の犬には有意に早くトラゾドンが投与された
・一方でメサドンの投与回数は②で有意に少なかった
・また①より②の犬の術後48時間における食餌量が有意に多かった

 

 

意外にも、②の犬に早くトラゾドンが必要となった要因について、大学は『ヒトとの交流が多少のストレスになった可能性があった』と述べる。そして、それであったとしても、オピオイドの投与回数は減り、食餌量は増えることも考慮すれば、環境エンリッチメントに痛みや不安を和らげる効果はあったと結論付けた。よって、術後の痛みがコントロールできない入院症例を抱えている獣医師におかれては、環境エンリッチメントを意識した入院室の整備を検討することをお薦めする。

mGCPSスコアで5/20以上の場合、痛みがあると判定されております。

 

参考ページ:

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2023.1124982/full


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