品種別に発症しやすい病気が異なるとすると、ある特定の国や地域で飼育されているペットの人口統計を把握することは、小動物臨床において大変に重要なことである。また、短頭種など一部の品種は極端に変形した、歪んだ骨格を有しており、特有の病気(短頭種気道症候群など)を抱えやすいこと考慮すれば、これらの品種に偏った人口統計は是正するべきだとも言える。では実際ところ、現状は一体どうなっているのだろうか。
冒頭のような背景の中、イギリスの大学(RVC)および動物慈善団体( Dogs Trust)らは、2019年の時点で大規模臨床データベースに登録されており、一次診療施設で診察を受けたとこのある犬の人口統計を明らかにする研究を行った。すると、220万匹以上のデータが集積され、以下に示す事項が明らかになったという。
◆イギリスの一次診療施設を訪れる犬の人口統計◆
・オスとメスではオスが約52%とやや多かった
・約69%(150万匹以上)が純血種であった
・約7%(14万匹以上)がミックス犬であった
・約24%(53万匹以上)が雑種であった
・約36%(81万匹以上)を軟骨異栄養犬種が占めていた
・約18%(39万匹以上)を短頭種が占めていた
・全ての年齢層で多くを占めていた品種は雑種であった
・次いでラブラドールレトリバーとジャックラッセルテリアが続いた
・1歳未満(22万匹以上)に限っても雑種が最も多かった
・次いでフレンチブルドッグ、コッカプーが続いた
上記のことから、研究対象となった220万匹の半数以上が短頭種または軟骨異栄養犬種であることが分かる。また、1歳未満に限れば、雑種に次いで短頭種の代表格、フレンチブルドッグが多く占めている状況だ。これから更に短頭種は増えていくのだろうか。そして、それと同時に短頭種気道症候群に苦しむ症例も増加するのだろうか。仮にそうであるならば、短頭種の極端に変形した、歪んだ骨格を是正し、動物福祉の向上を図る必要に迫られるかも知れない。

軟骨異栄養犬種は骨肉腫の発症リスクが低いと報告する研究がありますので、今回明らかになった人口統計から、当該疾患の有病率が低下していくのかも知れません。
参考ページ:
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0288081