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腫瘍細胞のテロメアーゼの活性を抑えることが期待される「犬用」抗腫瘍ワクチンの開発

投稿者:武井 昭紘

生物を構成する細胞に含まれるDNAの末端には、細胞分裂の度に短くなる性質があるテロメアと呼ばれる「塩基配列の反復」が存在しており、それが一定の長さ以下になると、正常な細胞の増殖を止める力を発揮すると言われる。しかし、一方で、腫瘍細胞はテロメラーゼというテロメアを延長する酵素を生成し、前述に記した増殖抑制効果から解放されるとともに、無制限・無秩序に増え続ける能力を獲得するとされている。つまり、至極シンプルに考えると、テロメラーゼの働きを阻害すれば、腫瘍細胞の増殖を制御し、動物の命を救えるのではないかと仮定することが出来るのだ。

 

2019年5月、この説に挑戦するかの如く、あるワクチンに関する論文が発表された。

なお、発表を行ったパスツール研究所らによると、犬のテロメラーゼDNAワクチン(名称:pDUV5)を開発して、マウスおよび臨床上健康な犬に接種したのち、続いて、担癌犬から採取した末梢血単核細胞(Peripheral Blood Mononuclear Cells、PBMCs)に曝露したところ、テロメラーゼの酵素活性に深く関与するテロメラーゼ逆転写酵素(Telomerase reverse transcriptase、TERT)に対する特異的に反応する細胞傷害性T細胞が誘導されることが判明したとのことである。

上記のことから、pDUV5は、テロメラーゼを持たない正常な細胞へ殆ど影響することなく、腫瘍細胞のテロメラーゼを阻害し、後者の増殖のみを効率的に抑え込むように生体内で作用することが想定できる。よって、本研究が進み、将来的にpDUV5が製品化され、あらゆる腫瘍性疾患に適応できる「万能薬」が誕生することを願っている。

pDUV5の接種後に起きる副反応についても解析され、腫瘍を抱える犬の負担を最少限にするワクチンスケジュールがガイドライン化されていくことも期待しております。

 

参考ページ:

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31164958


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