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マウスの脊髄損傷を回復させる因子に関する研究と獣医療

投稿者:武井 昭紘

交通事故、落下、骨折に起因する脊髄損傷(spinal cord injury、SCI)では、人医療・獣医療ともに、「損傷以前」の状態へと脊髄を再生させることは難しいとされているため、①犬の胎盤由来細胞の再生能力や②シリコン製ガイドの有用性などを解析するといったアプローチによって、脊髄組織(太い神経組織)の再生を促進する手法の開発が模索されている。しかし、未だ、臨床応用ができる程の技術が考案されるまでには至っていないため、①細胞学的、②細胞が増える空間の整備とは異なる観点から、更なる研究を行うことが重要であると思われる。そこで、以下に、マウスのSCIを開腹させた「ある論文」について紹介したい。

2018年11月、ペンシルバニア大学に拠点を置くテンプル大学は、細胞外マトリックスを構成するコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPGs)に着目して、SCIを患ったマウスにCSPGsの産生を調整する因子LKB1を投与する研究を行った。すると、LKB1の投与から数週間後に、罹患マウスの後肢の動きが改善されたとのことで、CSPGsおよびLKB1は、SCIの治療に重要な役割を担っていることが証明された。

上記のことから、犬猫を含む小動物におけるCSPGsの体内分布やSCI発症時のLKB1の発現について調査をすることは、幹細胞が脊髄を再生しやすい「環境整備」という新たな治療法の確立へと繋がる可能性を秘めていると考えられるのではないだろうか。

今後、本研究をもとに、変性性脊髄症の進行を遅らせる治療の開発も検証されていくことを期待しております。

 

参考ページ:

https://medicine.temple.edu/news/temple-scientists-identify-novel-target-neuron-regeneration-and-functional-recovery-spinal-cord


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