ヒトの糖尿病は、世界で4億1500万人に達しており、2040年には6億4,200万人に増加すると推計されている代謝性疾患であり、獣医療現場でも犬猫の糖尿病は珍しくなく、無治療では致死的な経過を辿るリスクがある急患として来院することもある。そして、ヒトおよび動物ともに、糖尿病の治療にはインシュリン製剤が重要な役割を担うことになる。しかし、インシュリン製剤の注射は自宅で行うことが多いこと、糖尿病の病状進行度によるインシュリンの必要量の変化が起きること、内因性のインシュリンの動態を外因性のインシュリン製剤で完全再現することは困難であることなどを要因として、低血糖・高血糖値およびそれに続発する症状を繰り返す懸念が拭い切れない。
そこで、アメリカのノースカロライナ大学は、「血糖値に依存する」かつ「ゆっくりと作用する(徐放性)」インシュリンデリバリーシステムに関して研究を行った。同大学は、血糖値の変動に応じてグルコーストランスポーターによるグルコースの取り込みを調整することができるインシュリン製剤(glucose derivative-modified insulin、Glc-Insulin)を赤血球に取り込ませて、赤血球から血液中に少しずつインシュリンを放出させることで、内因性インシュリンに類似した「安定的な血糖値のコントロール」が可能であることを糖尿病モデルマウスで実証した。
ノースカロライナ大学は、さらに研究を進めて、上記の手法を応用して、インシュリン製剤を赤血球の膜構造で包むナノデクノロノジーを開発して、ヒトの糖尿病治療に革命を起こそうとしている。今回紹介したインシュリンデリバリーシステムは、自己管理をするヒトの糖尿病以上に、「必然的に他者(ペットオーナー)が管理をする」犬猫の糖尿病での需要が高いことが推測できるため、今後、人医療で確立された「進化したインシュリン製剤」が、獣医療にも応用されることを期待したい。

赤血球などの膜構造を利用した薬剤のデリバリーシステムが、生体内の「恒常性」を完全再現して、多くの疾患の病態を安定させる未来が近いかも知れません。
参考ページ:
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28267235


