以前から、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)感染症やヘルペスウイルスの脳内感染を起こしたマウスに狂犬病ウイルスワクチン(RVワクチン)を接種すると、死亡率が低下することが確認されており、RVワクチンには非特異的効果(Non-specific effects、NSEs)があるとされている。言い換えると、RVワクチンは、狂犬病ウイルス(RV)感染症の予防効果以外に、「様々な原因による死亡率を減少させる効果」を有している可能性があるということである。
そこで、カナダのプリンス・エドワード・アイランド大学は、犬におけるRVワクチン接種の有無と死亡率との関連性について研究を行った。同大学は、南アフリカ共和国のムプマランガ州の低所得者層がフリーローミング(放し飼い)をしている犬を対象として、2011年に確立したhealth and demographic surveillance system(HDSS-Dogs)という飼育頭数調査システムを採用して、犬の頭数(生存数)の推移を追跡している。そして、当該地域には、2012年~2015年の4年間に、2500世帯が延べ2903匹を飼育していたことが分かっている(以下に詳細を記載する)。
<研究対象となった2903匹の犬の詳細>
1.性別はオス1589匹(55%)、メス1259匹(43%)、性別不明55匹であった。
2.RVワクチンが接種されていた犬は1209匹である。
3.1263匹は出生時から追跡調査をしている。
3.ある時点の調査頭数の中央値は820匹(最小頭数は2015 3月18~20日の737匹、最大頭数は2012年11月9日の1083匹)であった。
4.1回のRVワクチン接種で3年間免疫が持続していると捉えて調査を進めている。
研究の結果、RVワクチン接種していない犬のグループに比較して、接種していた犬のグループでは、0~3ヶ月齢では56%、4~11ヶ月齢では44%、12ヶ月齢以上では16%の割合で、母集団全体の死亡率が減少することが明らかとなり、RVワクチンのNSEs(死亡率減少効果)が示唆された。同大学によると、上記のNSEsは、RVワクチンに含まれる成分がスーパー抗原(注1、文末に記載)として作用していると想定できるため、更なる研究によって解明していく予定とのことである。
現在、日本では、狂犬病予防法により、犬へのRVワクチン接種が義務づけられているが、100%の接種率には及ばないという現状がある。今後、アフリカ以外の世界各国においても臨床研究が実施され、「RVワクチンの死亡率減少効果」や「スーパー抗原としてのRVワクチンの作用」が認められるようになれば、ペットオーナーに対して「RVワクチンの真価」を啓蒙することが可能となり、日本における犬のRVワクチン接種率が向上するキッカケとなるかも知れない。
注1
スーパー抗原:本来予防できる特定の病原体以外の疾患・感染症を幅広く予防する免疫活性を起こす抗原(期待以上の予防効果を発揮する抗原)

狂犬病ワクチンに、狂犬病ウイルスの感染防御以外の秘められた効果があるとすれば、ワクチン接種に消極的なペットオーナーの意識を変える力も発揮すると思います。
参考ページ:
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0264410X1730765X


