ヒトの骨関節炎(Osteoarthritis、OA)は65歳以上の25%が罹患しており、小動物臨床においても日常的に遭遇する関節疾患であり、病態が進行すると関節の可動域が制限され、強い痛み(疼痛)を感じるため、QOLに大きな影響を与える場合もある。OAの治療は、重症例では外科手術を適応することもあるが、一般的には消炎・鎮痛剤、サプリメント、食事療法、体重管理、運動療法、理学療法などの「悪化させない治療法」が主体であり、治癒(完治)させるという観点からは充分とは言えないのが現状である。
そこで、ニューヨーク大学は、OAを発症するAdenosine A2A receptorノックアウトマウス(A2AR KOマウス)において、アデノシンに対する受容体であるA2ARが欠失していることに注目して研究を行った。アデノシンとは、高校の生物学で学ぶDNAの構成成分およびアデノシン三リン酸(ATP)の一部であり、生物系および医療系大学(獣医学を含む)でも必修となる「生体内にありふれた成分」である。同大学は、A2AR KOマウスおよび人工的に前十字靭帯断裂させたラットを用意して、両群の膝関節内にアデノシンを含有するリポソーム製剤を注入することで、OAが予防できることを明らかにした。
ニューヨーク大学によると、上記の研究でのアデノシンの作用は、OAにおける関節内のアデノシンおよびATPの低下(A2ARリガンドの減少に伴うA2ARの機能不全)を抑制することによる軟骨代謝の恒常性の維持であり、結果として軟骨組織の減少と骨棘形成の阻止が可能となるとのことである。今後は、アデノシンが重症のOA(既に軟骨組織の減少と骨棘形成が起きている症例)を罹患しているヒトおよび犬猫の治療に効果を発揮できるかについて研究を進めることが課題であると考えられる。また、将来的に、生体の構成成分であるアデノシンがOAの治療法のスタンダードとして確立されると同時に、関節内注射法以外の簡便なアデノシンの投与法(皮下注射、経口投与など)が開発されることに期待したい。

生体を構成している成分で予防や治療ができる疾患が増えたら、副作用の少ない(または全く無い)理想的な獣医療に近づくことができるかも知れません。
参考ページ:
https://www.nature.com/articles/ncomms15019


