犬猫を含む動物の病原体は、ヒトへも感染することがあり、人獣共通感染症(zoonosis)と呼ばれており、重症例では後遺症や死亡例となることもあるため、予防医療の啓蒙や病原体と臨床症状の科学的な関連性の解明は重要である。このようなzoonosisの一つとして、トキソプラズマ感染症というものがあり、国立感染症研究所のホームページ上では、先天性トキソプラズマ症の臨床症状として、水頭症、脳内石灰化、視力障害、精神運動機能障害(抑うつ状態が姿勢や動きを不自然にする)の4大兆候が記載されている。しかし、ロンドン大学によるAvon Longitudinal Study of Parents and Children (ALSPAC)の統計学的データに基づいた調査により、精神運動機能障害とトキソプラズマ感染症には因果関係が無いことが報告された。
ALSPACは、イギリスのブリストル大学が中心となって行われている大規模かつ長時間(20年以上)の追跡調査で、妊娠している女性および新生児(1991年4月~1992年12月の間で14000人以上)を対象として、人の健康と発育に影響を及ぼす環境的または遺伝的要因の研究を行うプログラムである。ロンドン大学は、ALSPACに参加したヒトのうち、猫を飼育している家庭に焦点を絞り、新生児が13歳(N=6705)および18歳(N=4676)になった時に、精神病体験(psychotic experiences、PEs)を経験したことがあるかについてアンケートを実施した(チェック項目は以下の通りである)。
◆PEsのチェック項目◆
・現実感の喪失(derealization)
・離人症(depersonalization)
・自己疎外感(self-unfamiliarity)
・醜形恐怖症(dysmorphophobia)
・視空間認知障害(perceptual abnormalities)
・妄想性障害(delusions)
・幻覚(hallucinations)
・侵入思考(intrusive thoughts)
同大学は、上記の調査データをχ²検定、分散分析(analysis of variance、ANOVA)、多変量解析によって統計学的処理を行って、幼少期からの猫の飼育とPEsには相関関係が無いことを明らかにした。
このことにより、トキソプラズマ感染症とPEsの因果関係は否定されたが、水頭症、脳内石灰化、視力障害の3つに関しては否定されていないため、引き続きトキソプラズマ感染症への対策は重要であると考えれる。しかし、猫のペットオーナーが胎児や子供の精神疾患を心配している場合には、エビデンスに基づいたアドバイスが可能となるとこは、朗報ではないだろうか。

ペットオーナーと信頼関係を築くために、これからも、明るいアドバイスできる研究結果が増えていくことに期待したいです。
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