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自分の望みを叶えるために犬が遣う戦略的騙しテクニックが実証される

投稿者:武井 昭紘

動物病院に来院するペットオーナーの悩みには、予防・病気など診療業務に直接関連したものもや「しつけ」、問題行動、ペットフード(食べさせても良いもの)の選び方などに対する日常生活での疑問点などもあり、様々である。その中でも、問題行動(ヒトから観ると不都合な行動)は、ペットオーナーや動物病院スタッフを答えの無い、深い悩みの中へと誘う(いざなう)こともある。これらの問題行動への対応は、各動物病院で異なり、動物行動学および行動療法を専門として問題行動の治療に当たる病院もあれば、予防・一般外来・入院などの診療業務に忙しくて問題行動へのアドバイスも充分に出来ない病院もあるのではないだろうか。そこで、少しでもペットオーナーの悩みを解決するキッカケとなればということで、短い診察時間の中で伝えられる「犬の戦略的騙しテクニック」に関する研究について記載したいと思う。

今回の研究はスイスのチューリッヒ大学が行ったもので、犬がヒトへ働きかけて自分の望みを叶える行動を観察することが目的であった。まず、犬とペットオーナーに協力してもらい、3者択一(three-way choice task)でご褒美を得られるチャンスに挑戦してもらうことから始まった。それは、好きな食べ物が入った箱、苦手な食べ物が入った箱、空の箱の何れかにペットオーナーを誘導して、箱の中身をもらえるという形式で実施され、ペットオーナーは必ず箱の中身を犬に渡すという条件とした(空の場合は何も渡さない)。容易に予想できるかも知れないが、犬はペットオーナーを好きな食べ物が入った箱へと誘導することになる。

次に、ペットオーナーに同行する2人の他人(犬にとって見慣れないヒト)を用意して、それぞれのヒトに役目を持たせた。一人は犬に誘導されたペットオーナーから渡された「食べ物を犬に渡す」協力的な立場(cooperative partner)、もう一人は犬に誘導されたペットオーナーから渡された「食べ物を犬に渡さない」非協力的な立場(competitive partner)であった。ペットオーナーには、cooperative partnerまたはcompetitive partnerのどちらか一方が同行することで、犬に「状況が変化した3者択一」を経験させて行動観察を続けた。その結果、犬は、最初のうちはcooperative partnerを好きな食べ物が入った箱に誘導することに集中していたが、最終的にはcompetitive partnerを苦手な食べ物が入った箱または空の箱へと誘導することを頻繁に行うことが明らかとなった。

上記の研究から、犬は、自分にとって都合の良いヒト(cooperative partner)を利用すると同時に、都合の悪いヒト(competitive partner)も利用することが推測できる。つまり、competitive partnerに苦手な食べ物や空の箱を選ばせることで、cooperative partnerが好きな食べ物を選択できる確率を上げていることになる。

もし、問題行動を抱えたペットおよびペットオーナーに遭遇した時には、飼育環境や家族構成の中にcooperative partnerとcompetitive partnerの存在がないかを確認することが、悩みを解決する一助となるかも知れない。そして、犬には、都合の良いヒト、都合の悪いヒトという認識をさせないようにペットオーナーとその家族の「接し方」を見直すアドバイスをすると良いのではないだろうか。

 

犬は、自分にとって都合の良いヒトを利用するだけではなく、都合の悪いヒトをミスリードする高度な知能を持っているようです。

犬は、自分にとって都合の良いヒトを利用するだけではなく、都合の悪いヒトをミスリードする高度な知能を持っているようです。

 

参考ページ:

https://rd.springer.com/article/10.1007/s10071-017-1078-6


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