小動物臨床において、日々の診察業務での悩みの1つに、「猫への投薬」が挙げられる。それは、ヒト用医薬品を含めて、動物病院で使用される薬剤は、味覚という観点から考えると、ペットに大きなストレスを与える場合があり、特に猫では顕著な反応が認められからであり、投薬する動物病院スタッフまたはペットオーナーにもストレスがかかることになる。そこで、フィンランドのヘルシンキ大学は、猫の投薬ストレスをゼロにするための研究を行うことにした。
最初の実験では、34匹の猫を対象として、①好きな食べ物(favoured food、FF)、②好みではない食べ物(non-favoured food、NFF)、③プラセボの錠剤を隠したFF(FF with a placebo mini-tablet hidden inside)を与えた時の行動パターンを観察することから始まった。ここでチェックされた行動パターンは、耳や尾の動き、鼻を舐める行動、グルーミング、食べ物を避ける(食べない)など16項目に及び、統計学的解析を行うことで、嗜好性試験の指標として確立させた。
2つ目の実験では、薬剤の味をマスキングする成分の候補としてL-ロイシン、L-メチオニン、チアミン(ビタミンB1)を挙げて、ポリマーコーティング技術または原子層堆積技術(Atomic layer deposition、ALD)を用いて錠剤をコーティングして、嗜好性を高める試みがとられた。この研究は、現在進行中であり、最終的な結論は出ていないが、上記のコーティング方法で作製された錠剤が、1つ目の実験のFFと同様に猫に受け入れられる結果が得られれば、猫、動物病院スタッフ、ペットオーナーの投薬ストレスは皆無となる可能性がある。また、将来的に、錠剤をコーティングする医療機器が動物病院用として開発されると仮定したら、分包器を使用する感覚で、院内にある「薬剤を自由自在に嗜好性の高いオヤツに調剤」できるようになることも期待でき、投薬に関する悩みが消えた獣医療が実現するかも知れない。

投薬で涎が大量にでる猫の姿や薬を強制的に飲ませるペットオーナーの苦慮を見なくても済む獣医療の時代が、近い将来に実現しているかも知れません。
参考ページ:
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1090023316300843
https://helda.helsinki.fi/handle/10138/176715


