犬の筋ジストロフィーは、生後から子犬の時期までに発症して、全身の筋組織の萎縮に伴う多様な症状を呈する疾患である。その中でも、ゴールデン・レトリーバーの筋ジストロフィー(golden retriever muscular dystrophy、GRMD)は、ジストロフィン遺伝子の突然変異を原因とするヒトのデュシェンヌ型筋ジストロフィーのモデルとして注目されている。しかし、人医療、獣医療ともに、筋ジストロフィーの治療法が確立されていないという現状がある。
そこで、ロンドン大学およびナント大学(フランス)は、GRMDに対するベクターウイルスを用いた遺伝子治療の効果に関する研究を行った。同研究では、①臨床上健康な犬、②無治療のGRMD症例、③遺伝子治療を適応したGRMD症例における病理組織学的または臨床検査学的所見の比較が実施されている。
研究の結果、②ではジストロフィンの欠損が認められ、③では①が有するものと比べて分子量が小さいジストロフフィン(マイクロジストロフィンと表現されている)が発現していることが明らかとなった。さらに、③の歩行能力は、ベクター投与後からの時間経過とともに、①のそれに近づいていくことも判明している。加えて、一部の症例を除いて、遺伝子治療によって生成される新しいタンパク質(マイクロジストロフィン)には抗体が作られないことも発表されている。上記のことから、ベクターによる遺伝子治療は、GRMDに有用であることが考えられる。
今後、マイクロジストロフィンに対する抗体が発生する症例の解析(抗体が産生されないようにする手技の検討)、ベクターの薬用量の設定および安全性試験などを経て、GRMDに限定することなく、犬やヒトの筋ジストロフィーを完治させる治療法が確立されることに期待したい。
参考ページ:
https://www.nature.com/articles/ncomms16105#t2