愛犬を亡くした女性が動物病院に約160万円の損害賠償を求めた裁判。争点になったのは「入院中のペットの死をみとる権利」だった。
記事によると、女性の愛犬は2004年8月、当時飼っていた犬が自宅で産んだメスのトイプードル。生まれてからずっと「娘」のように愛情を注いできた。「夫も仕事をしていたので、留守の時に何かあってはいけないとペットシッターを雇ったり、警備会社と契約したりしました。自分の子供のような、家族同然の存在でした」
17年連れ添った「家族」、突然起きた異変
異変が起きたのは2021年1月。体調を崩した愛犬を動物病院に連れて行くと、脳腫瘍と診断された。人間の年齢に換算すると85歳。女性は方々をかけずり回り、医療費は100万円を超えた。その思いが実を結んだのか、診断後大きな発作を起こすことはなく、穏やかな日々を過ごしていた。
「会わせてください」涙の訴えに「絶対大丈夫」
だが、診断から8カ月がたった9月のある日、深夜に愛犬が突然発作を起こした。駆け込んだのは夜間診療を受け付けている東京都内の救急動物病院。一晩、入院治療を受け、翌朝に退院となったが、容体が悪化し、再び入院が決まった。
その後も状況は一進一退が続き、女性は連日病院に通い詰めた。入院から3日後、病院を訪れた女性は、応対した獣医師から検査結果を示され「容体は安定している」と告げられた。説明に納得できなかった女性は、ふと診察室の奥に目をやった。飛び込んできたのは、必死に立とうとしている愛犬の姿だった。
「会わせてください」。そう涙声で叫んだが、獣医師から「私たちを信じてください。絶対大丈夫です」となだめられた。連れて帰ることも許されず、仕方なく病院を後にした。
翌日未明、病院からすぐ戻るよう電話があった。急いで向かうと愛犬はぐったりと診察台で横たわっていた。女性はその場で抱きかかえたが、そのまま静かに冷たくなっていくのをただ見守るほかなかった。
「悲しみは筆舌に尽くしがたい」
10日後、病院との話し合いの場が持たれた。病院側からは命を救うことができなかった謝罪と、見舞金10万円の支払いの提案があったが、女性は入院治療費約35万円の返還を要求して拒否。愛犬の最期を家でみとる機会を奪われたとして、動物病院の運営法人に慰謝料など160万円を求めて2022年、東京地裁に提訴した。
「獣医師が適切に状態を把握して伝えてくれていれば、自宅での看護に変更できた。動物にとって自分の生まれた家で過ごすことが最大の幸せであることは分かっているはずだ。意識のある状態で最期の時を迎えることができなかった悲しみは筆舌に尽くしがたい」。訴状にはそう悲痛な思いがつづられていた。
一方、病院側は「飼い主であるからといって、面会が当然に許される訳ではない」と真っ向から反論した。面会制限について、当時の病状に照らせば、むやみに体を動かしたり興奮させたりする行為はできるだけ避ける必要があったと説明。適切な診療を行っている中で面会をさせる義務はなく、法的責任を追及されるのはあまりにも理不尽だと訴えた。
「生まれた家で天国に行かせてあげたかった」
双方の主張は対立したまま、3年の月日が流れた。
2025年10月、本人尋問で証言台に立った女性は「何度もだっこさせてほしいと言ったのに、一切認めてもらえず『絶対大丈夫』とまで言われた数時間後に心臓が止まってしまった」と強調。「私の責任で連れて帰るという意思が全く尊重されなかった」と病院の対応を非難した。
尋問の最後、弁護士から訴訟にかける思いについて問われると、せきを切ったように、こう語り出した。
「たかが犬が死んだくらいでここまでするかって思われた方もいるかもしれない。この人はただお金が欲しい、病院に文句を言いたいだけなんじゃないかという人もいると思う。私は本当にそういう気持ちは一切ありません。私の最後の望みは、自宅で生まれたあの子を、この家で天国に行かせてあげることでした。それなのに、もうみとりの時期だって分かっているのに、亡くなる寸前まで治療をして、費用に上乗せしている。そんなひどいことってありますか」
迎えた今年1月の判決期日。東京地裁は、女性の訴えは認められないとの判断を下した。裁判官は「治療を受けている動物の病状に影響を与えうる面会を、自由にできる権利を認めるのは困難」と指摘。「絶対大丈夫」という発言も女性を安心させようとして述べたものと結論付けた。その後、女性は判決を不服として控訴した。
ペットは長寿化、最期の時どう向き合う
獣医学の進歩や飼育環境の変化によって、ペットの平均寿命は年々伸びている。一般社団法人ペットフード協会の調査によると、2025年の犬の平均寿命は14・82歳、猫は16歳だった。長寿化が進む一方、終末期をともに過ごす「みとり」の権利は、人も動物も明文化された法規定はない。
過去には瀕死のペットを治療できるとうそをつき、その後放置して死なせた獣医師に「飼い主が主体的に自宅等でみとり、死亡を見守る利益を侵害した」と裁判所が約59万円の賠償を命じた例もある(2007年東京地裁判決)。ただ、このケースでは獣医師が治療をせず、入院費などを請求する常習的な詐欺行為をはたらいていたと認定されており、態様について「極めて悪質」と判断されている。
「家族」との時間を大切にしたい飼い主と、目の前の「患者」を救う使命がある獣医師。お互いの思いがすれ違わないためにも、最期の時をどうみとるか、ペットと共に過ごす全ての人が心に留める必要がありそうだ。
誰にでも訪れる最期の時。その瞬間は「家族」として共に過ごしたペットにもやってくる。「大切でかけがえのない時を後悔なく過ごす権利を奪われた」。
https://www.47news.jp/14130557.html
<2026/04/10 47NEWS>
入院中の愛犬をみとる権利は飼い主にあるか? 面会拒んだ動物病院 賠償を求めた訴えに裁判所の判断(写真と記事は関係ありません)



