小動物臨床において問題となる住血線虫の一種であるAngiostrongylus vasorum(A.vasorum)は、主に犬の心臓や肺動脈に寄生して、心不全症状、呼吸器症状、消化器症状、神経症状などを発症させる寄生虫であり、無治療の罹患犬に死の転帰を齎す危険な病原体として知られている。また、イギリスでは、A.vasorumに感染した犬の症例が相次いで報告されており、これに懸念を示したバイエル社が同病原体の脅威を啓蒙するウェブサイト(Act Against Lungworm)を開設するまでに、事態は深刻化しているとのことである。
そして、2019年12月、この感染症に関する「更なる悪い知らせ」が、スイスのチューリッヒ大学より発表されてしまった—–。
なお、その発表によると、タンパク尿を伴う皮下浮腫および胸水・腹水の貯留を呈していたことから糸球体性疾患を疑っていた猫の剖検をしたところ、病理組織学検査で肺動脈内に血栓と線虫類の断面を確認し、患部の遺伝子学的解析にてA.vasorumのDNAが検出されたとのことである。故に、同大学は、この症例が、世界初の猫のA.vasorum感染症であると結論付けたというのだ。
上記のことから、多かれ少なかれ、A.vasorumが猫に感染する可能性が示されたものと思われる。よって、今後、ヨーロッパ各国では、原因が特定できない「何らかの」臨床症状を認める猫におけるA.vasorum感染症の有病率を明らかにする研究を進めることが、非常に重要な獣医学の課題となるのではないだろうか。
参考ページ:
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31796174