視力障害を起こす代表的な犬の疾患に挙げられる網膜変性症の一部は、網膜色素上皮や光受容体細胞の機能を失うことで、「目が見えていない」という印象をオーナーに与えるような症状を発現することがある。また、同様の病態はヒトでも確認されており、ロドプシンの発現を阻害するサイレンシング遺伝子(short hairpin RNA、shRNA)の関与が発症要因とされている。
つまり、言い換えると、shRNAを抑制するシステムを開発すれば、ロドプシンは通常通り発現して、視力障害を解決できるという仮説が成り立つことになる。
そこで、アメリカの大学らは、アデノウイルスベクターを用いて、網膜変性症の犬にロドプシンを発現させるためのshRNA抑制技術を適応した。すると、供試犬の体内でロドプシン産生(健康な犬の3割程度)を促すことに成功し、罹患犬に網膜電位図で確認できるまでの視力を回復させられることが判明した。
上記のことから、アデノウイルスベクターによるshRNA抑制法は、網膜変性症の治療法の「一つ」として有用であると考えられる。ただし、多岐に分類される網膜変性症のうち、同手法を適応できる病態を明確にすることが必要となるため、今後の研究の進展に期待したい。
参考ページ:
http://www.pnas.org/content/115/36/E8547