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「オピオイド系鎮痛薬に依存しない」犬の麻酔・疼痛管理の確立が望まれている海外事情

投稿者:武井 昭紘

ヒトおよび動物が手術を受ける場合には、痛みを感じさせないように麻酔をかけることが一般的であり、様々な麻酔薬を組み合わせたプロトコールが存在している。その中には、オピオイド系鎮痛薬も含まれており、優れた鎮痛効果を発揮するが、痛覚過敏(opioid-induced hyperalgesia、OIH)、耐性、呼吸抑制などの副作用が発現する場合がある。また、海外では、「オピオイドクライシス」が小動物臨床にも波及しており、獣医師がペットのために処方したオピオイド系鎮痛薬をオーナー自身が使用して薬物中毒に至る(オピオイド鎮痛薬を入手するために動物虐待を行う事例が後を絶たない状況である)という社会問題が起きている。上記のような背景から、オピオイドに依存しない麻酔法であるOpioid-free anaesthesia (OFA) が注目されるようになった。

そこで、オーストラリアのUniversity Veterinary Teaching Hospital Sydneyは、獣医療におけるOFAの確立を目指す「第一歩」として、3例の犬(6ヶ月齢のブルテリア、2歳齢のシェルティー、5歳齢のラブラドール・レトリーバー)にオピオイドを使用しない麻酔下で不妊手術を実施した。以下に、同研究の麻酔薬の詳細およびOFAの効果判定スコアリングを示す。

<今回の研究で使用された麻酔薬(全3例とも同じ麻酔科医が実施)>
・前投与薬:メデトミジン、ケタミン、アセプロマジン
・注射麻酔薬:アルファキサロン、リドカイン(症例による)
・吸入麻酔薬:イソフルラン
・局所麻酔薬:ブピバカイン
・鎮痛薬:パラセタモール、カルプロフェン

<不妊手術におけるOFAの効果判定スコアリング>
1.鎮静スコアリング(麻酔導入前)
2.術後の回復スコアリング(気管チューブを抜いた直後)
3.術後の疼痛スコアリング(気管チューブを抜いてから1時間ごとに3回)

 

研究の結果、OFAでは、供試犬(全例)の回復スコアリングが高得点となり、低血圧が生じないことが明らかとなった。さらに、モルヒネ(オピオイド系鎮痛薬)を使用したプロトコールよりも、OFAの方が、メデトミジンの用量を半減させることができることも確認されている。

今後は、3例によるファーストステップを基にして、中規模~大規模の臨床研究へと進み、データを蓄積していくことが理想的であると考えられる。そして、回復スコアリングのみではなく、鎮静スコアリングや疼痛スコアリングも高い値となるプロトコールを設定することが実現すれば、オピオイド系鎮痛薬の副作用およびオピオイドクライシスに対する懸念が解消されることが期待できる。

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世界共通の麻酔プロトコールを基盤にして、各国の諸事情(オピオイドクライシスなど)を考慮した麻酔法を確立していくことが、獣医療のレベルを向上させていくことに繋がるかも知れません。

参考ページ:

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5440608/#__ffn_sectitle


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