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「血液を必要としない筋損傷の評価」に必要なサンプルは犬の口腔内から採取できる

投稿者:武井 昭紘

災害・事故や手術などによる動物の筋組織(心臓・全身の筋肉)の損傷に関する評価は、本人が痛みや違和感をヒトとの共通言語にして訴えることができないため、他覚症状(身体検査、ペインスケールなど)として認識すると同時に、臨床検査所見に基づいた総合的な判断が頼りとなる。しかし、筋組織のダメージが甚大で、動物がショック状態に陥ってしまうと、血液検査のための採血をすること自体が困難となる場合がある。

そこで、スペインのムルシア大学は、ヒトにおける筋組織損傷を数値化することができる唾液検査を犬に応用するための研究を行った。同大学は、臨床上健康な犬13例(歯周病も無いコントロール群)、外傷または手術に伴う筋組織の損傷を起こした犬14例(MD群、muscle damage群)の計27匹から唾液および血液を採取して、筋損傷のマーカーであるクレアチニンキナーゼ(CPK)とアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)を生化学自動分析装置(Beckman Coulter社の AU600)で解析を実施した。参考までに、検査に必要な唾液サンプル量は、25μL(血清サンプルは3μL)であった。研究の結果、コントロール群に比べて、MD群では、血清中と唾液中のCPKとASTが有意に高値を示すことが明らかとなり、MD群の最高値は、コントロール群の最高値の30倍以上の値を示す結果となった。

上記のことから、何らかの理由で採血が困難な症例や医療器具が不足する災害現場などでは、動物病院が導入している血液生化学検査機器さえあれば、「唾液検査で筋損傷を把握する」ことができるかも知れない。そのためには、今後、日本の小動物臨床で普及している機器(ドライケムなど)でも唾液検査が可能であるか検証を行うこと、中規模~大規模の臨床研究でデータを蓄積することが重要であると思われる。そして、唾液検査が、血液生化学検査の代替として確立される未来があるとしたら、一部の犬やペットオーナーのストレス、採血時間の省略(時間短縮)、貧血を伴う症例での度重なる検査の負担軽減など様々な恩恵が受けられるのではないだろうか。

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唾液検査が臨床応用され、多くの犬の命を救うキッカケとなれば、獣医療に幅(奥行き)が出てくると思います。

 

参考ページ:

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5466776/


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