山形県の新庄市中心部にクマが出没し、1日午後から最上公園に潜んでいたクマ1頭は2日午前9時半ごろ、同市小田島町で捕獲された。
記事によると、クマは2日朝、同公園の新庄城本丸跡にある戸沢神社北側にいた。午前7時ごろ、新庄猟友会員らが麻酔銃や網を持って近づいたところ立ち去り、新庄南高の敷地内に侵入。その後JR新庄駅付近などに現れ、同9時半ごろ、住宅街で動きを止めたクマに獣医師が麻酔銃を撃ち、猟友会がおりに収容した。市街地から離れた山間部に放ち、山へ入っていくのを確認した。市と新庄署、猟友会、市消防団から約150人が出て対応。猟友会によると、クマは体長135センチ、体重約50キロの雌という。
岩手大農学部の山内貴義准教授(野生動物管理学)は、今回出没した個体は極度に痩せ細っておらず、活発に動き回っていたことから「冬眠せずに餌を探していた可能性がある」と説明する。冬眠時期は餌の資源量によって決まるといい、比較的豊富だと時期が遅くなることが確認されている。今季は木の実が豊富なため、冬眠せずに動き回る中で、餌を求めて市街地に出てきたことも考えられるという。
近年、人口減少により人が活動する地域が縮小していく中、野生動物の分布は広がり、人に慣れたクマが出没する事案が頻発している。昨年度、餌となる木の実が不作だったことから、今回の個体はその際、人里近くで餌を食べた経験を基に、人家近くに下りてきた可能性もあると推察する。
クマは本年度、指定管理鳥獣に指定されたばかりで、対応に向けた試行錯誤が各自治体で続いている。「今回出没したクマを調査するなどし、対応事例を積み上げていくことが重要」と指摘している。
クマは約2時間半、新庄市中心部を駆け巡り、同市小田島町の住宅街で捕獲された。周辺の住民はほっとした表情を浮かべた。
小田島町でヨガ教室を営む古沢久子さんは捜索車両などで騒がしかったため午前9時10分ごろ、自宅3階から外を見た。東側約10メートルの地面にクマがいた。「眠っているかのように動かなかった」。同15分ごろ、麻酔銃を持った獣医師と新庄署員2人が自宅3階ベランダに。直後、獣医師が「撃ちます」と伝え、発射音とともに1発目が命中した。新庄署員が「1分経過」と伝えると、獣医師は2発目を撃ち、再び的中させた。
クマは顔を左右に動かすようなしぐさをし、動かなくなった。猟友会員らが網で捕まえ、おりに入れた。古沢さんは「目の前にクマが来るとは思わなかった。不安もあったが、一安心した」と安堵(あんど)の様子だった。
自宅2階から捕獲を見守った近くの無職内田正俊さん(68)も「野生のクマを自宅裏で初めて見るとは」と驚いた表情。「どこから来たのか。温暖化の影響だろうか」と首をかしげた。 クマが一晩とどまった最上公園内の戸沢神社で宮司を務め、社務所兼住宅に住む日下修一さん(52)は「夜は寝付けなかった。けが人がいなくてよかった」と胸をなで下ろした。
全国各地で市街地へのクマ出没が問題化している。市街地では猟銃を発砲できないため、新庄市は今回、県の許可を得て例外的に市街地で使える麻酔銃と箱わなでの捕獲を図った。同市によると、出没したクマを麻酔銃で捕獲した事例は県内では少なく、地元猟友会からは「麻酔銃の所持許可を持つ会員を増やした方がいい」との声が上がった。
新庄猟友会(古沢友一会長、41人)では会員1人が麻酔銃の所持許可を申請中で、銃は保有していない。このため、同市環境課は1日、県みどり自然課を通して紹介された山形市の獣医師に「箱わなで捕獲した場合、麻酔が必要なのでお願いできないか」と相談。獣医師は要請に応じ、今回の事態収拾につながった。
市環境課などによると、麻酔銃の射程距離は20メートル前後。麻酔が効くまで5~10分かかるとされ、効かない場合もあるという。クマは射撃手に向かって突進する傾向があり、外した場合の危険性も伴う。古沢会長(75)は「今回は、身の安全を確保できる住宅3階の高所から狙えたのが良かった」と話す。
麻酔銃本体が100万円前後と高額で、麻酔薬は獣医師などしか扱えないことが、クマ捕獲での使用に広がりを欠く要因となっている。古沢会長は「普及に向けては、麻酔銃購入に対する補助など自治体の支援が欠かせない」とし、市環境課も「猟友会に対する支援策を充実させたい」との意向を示している。
人的、物的被害はなかったが、市街地を1日以上動き回り、関係機関は夜通し対応に追われた。専門家は人に慣れたクマが冬眠せず、餌を求めて市街地に出てきた可能性があると指摘。木の実や家畜の餌などを、屋外に置かないよう呼びかける。
https://www.yamagata-np.jp/news/202502/03/kj_2025020300058.php
<2025/02/03 山形新聞>
山形 新庄市街地でクマを捕獲 獣医師や署員らが夜通し対応(photoAC 写真と記事は関係ありません)