臨床経験が浅い、あるいは、初めて手術に臨む獣医師の外科的手技は拙い。それに比べて、臨床経験が豊富な獣医師の手技はムダが無い。そこで、疑問が浮かぶ。この拙さと、ムダの無さによって、動物が感じる痛みに違いは見られるのだろうか。
冒頭のような背景の中、ブラジルの大学らは、臨床上健康な猫16匹をランダムに2つのグループ(8匹ずつ)に分け、①一方を外科的手技に長けた経験豊富な獣医師に、②他方を臨床経験の浅い獣医師に不妊手術をしてもらい、猫が感じる痛みを比較する研究を行った。すると、以下に示す事項が明らかになったという。
◆①と②が実施する猫の不妊手術と痛みとの関連性◆
・①に比べて②では卵巣靭帯のクランプ中に心拍数と収縮期血圧が有意に上昇した
・また特定の手技に連動して呼吸数と呼気中のイソフルラン濃度も増加した
・①に比べて②ではフェンタニルによる鎮痛が必要となる可能性が高かった
・また緊急で術後の痛みをコントロールする必要に迫られる可能性も高かった
上記のことから、獣医師の臨床経験は手術中の各種パラメータと疼痛管理のレベルに影響を与えることが窺える。よって、臨床経験が浅い獣医師が猫の不妊手術を実施する場合は、動物福祉の観点から厳密な疼痛管理を徹底することが望ましいと思われる。

麻酔プロトコルは、リンク先の論文をご参照下さい。
参考ページ:
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39413829/