小動物臨床において、治療の対象(ペット)と指示を出す対象(オーナー)が異なることは大きな問題となる場合がある。仮に、獣医師の指示が的確であったとしても、オーナーがその指示を守らなければペットの治療は上手く行かないのだ。そこで、疑問が浮かぶ。オーナーが指示を守らない、あるいは、守れないことに関連するファクターとは何であろうか。
冒頭のような背景の中、カナダおよびニュージーランドの大学らは「投薬」に着目して、獣医師の内服指示をオーナーが遵守することに影響を及ぼすファクターを特定する研究を行った。なお、同研究は2019年1月~2020年7月までの約1年半に実施され、投薬指示を受けた犬のオーナーにオンラインアンケートを依頼する形式で進められた。すると、151件のデータが集積され、以下に示す事項が明らかになったという。
◆ニュージーランドで犬を飼育するオーナーの内服指示の遵守に影響をおよぼすファクター◆
・47%(71件)で指示が遵守されなかった
・犬の年齢が上がると指示を遵守する可能性が有意に高まった
・投薬を補助するグッズを「使用しない」オーナーは指示を遵守する可能性が有意に高かった
・47%のオーナーは「投薬方法を誰も教えてくれなかった」と回答した
・31%のオーナーは投薬は難しいと感じていた
上記のことから、①若い犬のオーナー、②補助グッズが無いと投薬が出来なくなるオーナーは内服指示を遵守しない可能性があることが窺える。また、約半数のオーナーは投薬の方法を知らない(教えられていない)ことも分かる。よって、投薬経験の無いオーナーには必ず投薬方法を教えることが重要だと言える。加えて、①②に該当する場合を中心にして定期的に投薬状況を聴き取ることも大切で、治療効果が期待できる充分な投薬ができていないと判断されるケースでは、オーナーと投薬方法の見直しについて話し合うことが望ましいと思われる。

内服指示を出す獣医師におかれては、「投薬はできそうですか?」などオーナーに配慮した声掛けをして頂けますと幸いです。
参考ページ:
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39272342/


