ALTが上昇している。しかし、犬は至って健康そうに見える。オーナーも日常生活で何か問題があるといった発言はしていない。ならば、どうするか。様子を見るか。定期的にモニタリングをするか。あるいは、積極的に診断・治療を計画するべきか。判断に窮する。
読者の皆様は、この時、どのような対応をするだろうか。自身の臨床経験から鑑みて、最良の手立を何とするだろうか。答えに悩むというのであれば、以下の研究を参考にして欲しい。イギリスのLocum Services Ltdというヘルスケア会社が発表した論文である。
◆臨床上健康な犬のALT上昇と彼らの転帰◆
・臨床上健康な犬125匹のALTに基づき参照値を設定した
・参照値は10.6~181.8 U/Lとした
・過去11年間にイギリスの動物病院を訪れた臨床上健康な犬315例の診療記録を解析した
・最大で11年間の経過を追跡した
・少なくとも1回以上ALTの上昇が確認された犬は19匹であった
・このうち1匹のみが慢性肝炎と診断された
・またこの1匹は肝不全で死亡した
・残りの18匹は肝臓以外の死因で亡くなるか、追跡期間終了まで生存した
・これら18匹には肝臓疾患に関連した臨床症状がみられなかった
・ALTが参照値範囲内に収まった犬296匹のうち1匹が肝臓疾患で死亡した
上記のことから、ALTが上昇した臨床上健康な犬(①)の約95%には肝臓疾患に関連した臨床症状が無く、肝臓疾患が死因にならないことが窺える。一方、ALTが参照値範囲内に収まった犬(②)の中には稀に肝臓疾患でなくなる個体が存在することも分かる。よって、①のオーナーに過度の心配をさせるような説明をする必要はなく、定期的な健康診断を受けることを薦めることが望ましいと思われる。また、②が仮に何らかの症状を訴えた時には、必要に応じて肝臓疾患を鑑別リストに追加することを忘れないようにして頂けると有難い。

研究の対象となった動物病院は、一次診療施設だとのことです。
参考ページ:
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39246001/


