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肥大型心筋症の猫に対するクレピドグレルの抗血栓効果を統計学的に算出した研究

投稿者:武井 昭紘

肥大型心筋症を患った猫の心臓内に血栓が形成されることがある。そして、この血栓が大動脈へと飛び火し、大動脈血栓塞栓症(aortic thromboembolism、ATE)を引き起こして罹患猫を苦しめることがあるのだ。そのため、当該疾患には抗血栓療法が適応され、近年ではクレピドグレルという薬剤が選択されることが多くなっているのである。しかし、この薬剤にはデメリットがある。どうやらクレピドグレルは猫の口に合わないようで、経口投与すると口から泡を吹き、咳き込み、嘔吐をするのだ。無論、カプセルやピルポケットに薬剤を隠し入れることは可能っだが、それであっても生涯に渡って投与することは、ストレスを感じやすい猫にはハードルが高いと言えるだろう。そこで、疑問が浮かぶ。この投薬が容易ではないクレピドグレルが持つ抗血栓効果は、どれ程のものなのだろうか。莫大な投薬ストレスに代えても、受けるべき大きな恩恵があるのだろうか。それとも、苦労の割に合わない恩恵しかないのだろうか。

冒頭のような背景の中、アメリカに拠点を置き獣医学関連の最新情報を発信するVeterinary Information Network(VIN)は、抗血栓療法を受けた肥大型心筋症の猫の経過を統計学的に解析し、クレピドグレルの抗血栓効果を数値化する研究を行った。すると、中程度から重度の肥大型心筋症を抱える猫において、クレピドグレルはATEの発生リスクを3~4%軽減することが判明したという。

上記のことから、クレピドグレルの抗血栓効果は弱いと言って過言ではない。つまり、この僅かな効果と投薬の大変さを天秤にかけた時に、割に合わない結果になる可能性が高い(ATEが起きる可能性が殆ど減少しない)のである。読者の皆様は、それでもクレピドグレルを投与するだろうか。獣医師とオーナーが充分に話し合い、結論を出すことが大切だと思われる。

VINは、クレピドグレルによる抗血栓療法は必須ではないと述べています。

 

参考ページ:

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38901452/


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