犬に起きる原因不明の脳脊髄炎(meningoencephalitis of unknown etiology、MUE)は、文字通り「原因不明」の中枢神経系の炎症で、疫学的背景の全容が解明されていない病気である。そのため、年齢、体重・体格、遺伝子など、どのような犬にMUEが起きやすいのか、そして、予後・転帰はどのようになるのか、詳細が分からないのが現状である。
そこで、ヨーロッパの大学および動物病院らは、1歳(52週齢)未満で、且つ、MUEを診断された犬34匹を対象にして、彼らの診療記録を解析する研究を行った。すると、以下に示す事項が明らかになったという。
◆1歳未満の若い犬に起きるMUEの特徴◆
・平均年齢は31週齢であった
・16週齢未満の犬が3例含まれていた(最年少は11週齢)
・平均体重は5.3kgであった
・小型~大型犬まで幅広い品種が発症していた
・交雑種の割合が最も多かった(24%)
・最も一般的な症状は意識障害であった(71%の症例)
・次いで運動失調(44%)、発作(29%)、旋回(26%)が続いた
・MRI検査で最も多く病変が認められる場所は前脳(38%)であった
・次いで複数の病変(35%)、脳幹(18%)、小脳(12%)が続いた
・症例44%がステロイド剤を単独で投与されていた
・同じく44%にはステロイド剤とシトシンアラビノシドが併用されていた
・5例(15%)は退院できずに死亡した
・29例(85%)は生存し退院した
・退院した症例のうち10例(29%)は再発した
・退院から再発までの期間は中央値で69日であった
・100日を超えて経過を追えた症例の追跡期間は中央値で752日であった(135~2944日)
・あらゆる死因を加味した平均生存期間が84日であった
上記のことから、何年と生存する症例は存在するものの、全体的な予後は不良だと考えられる。よって、今後、退院時の生存率、退院後の生存期間を改善し、再発を防止する治療法について議論され、MUEの治療成績が向上することを願っている。

1例はMRI検査後に麻酔から回復しなかったとのことですので、そのリスクを充分にオーナーと話し合って頂けますと幸いです。
参考ページ:
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38932495/