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FIPを発症した猫の血清および胸水・腹水に含まれるα1-酸性糖蛋白を調べた研究

投稿者:武井 昭紘

伝染性腹膜炎(feline infectious peritonitis、FIP)は、対症療法・支持療法を施しつつ罹患猫の免疫力がウイルスに打ち勝つことを願うしかない、猫を死へと誘う恐ろしい感染症と知られている。しかし、近年、レムデシビルおよびGS-441524が当該疾患に対する有効な治療薬として注目を浴びている。つまり、FIPを確実に診断し適切な薬剤を使用するれば、罹患猫の命を救うことができる環境が整い始めているのだ。では如何にして、確実に診断をするか。それが獣医学の課題となっている。

 

冒頭のような背景の中、ヨーロッパの大学らは診断マーカーとして有望視されているα1-酸性糖蛋白(Alpha-1-acid glycoprotein、AGP)に着目して、FIPと診断された猫の血清または胸水・腹水に含まれるAGP濃度を調べる研究を行った。なお、同研究では、GS-441524を投与された罹患猫でも同濃度が測定されている。すると、以下に示す事項が明らかになったという。

◆FIPを発症した猫の血清および胸水・腹水に含まれるAGP◆
・①FIPを診断された猫の血清中AGP濃度は中央値で2954µg/mL(200~5861µg/mL)であった
・②FIP以外の炎症性疾患を抱える猫では1734µg/mL(305~3449µg/mL)であった
・③臨床上健康な猫では235µg/mL(78~616µg/mL)であった
・②③に比べて①の血清中AGP濃度は有意に高かった
・FIP以外の病気を抱える猫(中央値560µg/mL)に比べて①の胸水・腹水中AGP濃度(2425µg/mL)は有意に高かった
・①がGS-441524を投与されると治療開始から7日以内に血清中AGP濃度は大幅に低下した
・そして14日前後で同濃度は正常化した

 

上記のことから、AGPはFIPを診断する有用なマーカーであるとともに、治療効果判定にも利用できる物質であることが窺える。よって、FIPの診療においてAGPを活用していない獣医師は、その利用を検討してみると良いかも知れない。

血清中に含まれるAGP濃度のカットオフ値を2531μg/mLに設定すると感度61%、特異度79%、2927 μg/mLに設定すると感度54%、特異度97%、胸水・腹水中のAGP濃度のカットオフ値を1686μg/mLに設定すると感度71%、特異度89%になるとのことです。

 

参考ページ:

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38793672/


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