100%安全な麻酔というものは、この世に存在しない。そのため、外科手術全般では、手術時間を短くすることが常に求められるのだ。では如何にして、時間を短縮するか。それが永遠の課題である。
冒頭のような背景の中、ミシシッピ州立大学は、犬の不妊・去勢手術を多数取り扱っている動物病院に協力を仰ぎ、2種類の縫合糸のどちらかを用いて卵巣子宮全摘出術を受けた犬の閉腹をしてもらう研究を行った。なお、同研究にて採用された縫合糸は、①表面がスムースなモノフィラメント(結紮をする必要があるもの)と②有刺縫合糸(縫合糸の表面に釣り針の返しのようなものがあり、それが組織に掛かるため結紮の必要が無いもの)である。また、閉腹には筋層、皮下織、皮下の3層を連続して縫合していく手技が採用されており、①では縫合する層が変わるポイントで結紮をするが、②ではその結紮は不要とされている。すると、何れの縫合糸を用いた場合においても術野の大きさに応じて閉腹に要する時間が変動するものの(術野が1cm大きくなると所要時間は39秒延長する)、①(6.5分、3.7~10.3分)に比べて②(4.9分、3.1~8.1分)では所用時間が短いことが判明したという。
上記のことから、結紮の必要性が無い②を用いると、効率良く閉腹することができると言える。よって、不妊・去勢手術受ける犬の症例が多い動物病院では、有刺縫合糸の使用を検討することが良いかも知れない。

どちらの縫合糸を使用した場合においても、術後合併症は認められなかったとのことです。
参考ページ:
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2024.1365213/full