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重度の舌炎、消化器症状、跛行を呈した4ヶ月齢の子猫の1例

投稿者:武井 昭紘

生後4ヶ月齢の子猫がイタリアの動物病院を訪れた。何でも、重度の舌炎、消化器症状(嘔吐・下痢)、跛行(後肢)を呈しているという。原因は不明。ウイルスが関与しているのかも知れないが、決定打は無かった。また、3つの症状の関連性も掴めなかった。ただ、口の中は重度の火傷を負っているようにも見えた。果たして、本症例に何が起きたのだろうか。

初診から4日後。ある事実が発覚した。それは重要なヒントであった。子猫のオーナーがカビを除去する化学物質を使ったというのだ。その除去剤には、塩化ベンザルコニウム(5%)が含まれていた。

同化学物質は、手指や器具を消毒する成分として広く普及している。一方で、猫は塩化ベンザルコニウムへの感受性が高く、2%の濃度の液体に接触しただけでも口腔内に炎症・潰瘍が発生し、一時的な神経症状や呼吸困難を起こすという。加えて、粘膜や皮膚には火傷、いわゆる化学火傷が生じる。本症例はチューブフィーディングおよび支持療法のために10日間の入院を強いられた。しかし、その後、無事に退院した。塩化ベンザルコニウムに接触したと思われる時期から3週間。症状は完全に消失した。

症例を発表したイタリアの大学らは述べる。一連の症状はイタリア国内では報告されたことのない現象だと。そして、訴える。塩化ベンザルコニウムの取り扱いには充分に気を付けて欲しいと。読者の皆様が謎に包まれた猫の口腔内潰瘍・舌炎に遭遇した場合は、鑑別リストに塩化ベンザルコニウム中毒を追加して頂けると有難い。

イギリスで報告された猫の塩化ベンザルコニウム中毒245件のデータによると、死亡率(安楽死を含む)は1.2%であったとのことです。

 

参考ページ:

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38622748/


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