数学的な話だが、物体の体積に対する体表面積の割合は、体積が大きくなる程に小さくなり、体積が小さくなる程に大きくなる。そのため、体表面積を基に用量を算出することのある抗がん剤の使用に際して、小型犬ではオーバードーズになるリスクがあると言われているのだ。では実際のところ、この数学的なオーバードーズという概念は臨床現場で問題となっているのだろうか。
冒頭のような背景の中、アメリカの大学および動物病院らは、リンパ腫と診断され、且つ、ビンクリスチンを投与された犬の診療記録を解析する研究を行った。なお、同研究では、体重15kg以下を小型犬と定義している。すると、①15kg以下の犬38匹、②15kgを超える犬100匹のデータが集積され、以下に示す事項が明らかになったという。
◆犬に投与されたビンクリスチンの副作用◆
・用量は中央値で0.6mg/m2であった
・約12%の症例に好中球減少症が起きた
・しかし①と②で発生状況に有意差はなかった
・無症状の犬の約29%で消化器症状が発現した
・消化器症状の発現状況については統計学的な解析ができなかった
・5%の症例が入院した
・①と②で入院するリスクに有意差はなかった
上記のことから、消化器の副作用については不明だが、血液学的な副作用と入院リスクは小型犬であっても増加しないことが窺える。よって、リンパ腫を患った小型犬の治療にあたる獣医師は、本研究で算出されたビンクリスチンの用量を参考にして頂けると幸いである。

「消化器症状の発現状況については統計学的な解析ができなかった」ことに関する理由として、
消化器症状に対する支持療法の影響があったことを挙げています。
参考ページ:
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38563346/