異物や毒物を誤食した犬の診察において、催吐処置が適応されることがある。そして、その際に使用される薬剤の一つに過酸化水素水が挙げられる。しかし、同薬剤を使用することに関して、一部の獣医師はあることを心配している。胃内でガスが発生することに伴う副作用が出るのではないかと。また、胃粘膜が荒れてしまうのではないかと。果たして、真偽の程は。過酸化水素水が抱える重大な副作用のリスクから使用の是非を考えることは非常に大切だと思われる。そこで、アメリカで大規模な動物病院グループを組織するVCAグループが発表した症例を紹介したい。なお、詳細は以下の通りである。
◆過酸化水素による中毒だと思われる症例◆
・ビションフリーゼの1例(3歳、不妊メス)
・過酸化水素水(3%)を推定10〜20mL/kgで摂取した
・意識が朦朧としている状態であった
・呼吸が速く、胃が鼓張していた
・画像診断で胃と肝静脈内のガス、気腹を認めた
・対症療法と酸素療法で対応した
・6時間後ガスは消失した
・入院加療中に重度の吐血を呈した
・エコー検査で重度に胃壁が肥厚していた
・内視鏡検査で胃粘膜に壊死を伴う潰瘍が形成されていた(重度)
・食道に軽度の点状出血があった
・5日間の入院を経て回復した
上記のことから、VCAは本症例を過酸化水素中毒と位置付けた。また、これ程までに重篤な症状を呈した症例の報告は今までに無いと述べる。一体、この中毒が重篤化した要因はどこにあったのだろうか。単純に誤飲した過酸化水素中毒の量の問題だろうか。あるいは、症例自体が何らかの要因を抱えていたのだろうか。今後、過酸化水素中毒の実態を調べる研究が進み、催吐処置に過酸化水素を用いることの是非が議論されることを期待している。

退院から5週間後のエコー検査で胃壁は正常化していたとのことです。
参考ページ:
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38407553/