血糖値を下げるインスリンを過剰に分泌する悪性腫瘍である犬のインスリノーマは、その腫瘍が発生した膵臓の部位を切除する外科手術で治療される。そのため、手術に伴う痛みを軽減するべく、可能な限り侵襲度の低い術式が理想とされているのだ。一方、話は変わるが、腹部の切開創が極小となる腹腔鏡手術は、侵襲度が低いものとして近年注目が集まっている。そこで、疑問が浮かぶ。インスリノーマを発症した犬に腹腔鏡手術を適応すると、どのような経過を辿るのだろうか。
冒頭のような背景の中、ユトレヒト大学は、インスリノーマと診断された高齢(7〜9歳)の犬4匹に腹腔鏡手術を適応し、彼らの経過を追跡する研究を行った。なお、何の症例も脱力感や発作を呈し、且つ、血糖値が異常に低下しているとのことである(血液中のインスリン濃度は正常〜高値を示している)。すると、以下に示す事項が明らかになったという。
◆腹腔鏡手術によってインスリノーマの治療を受けた犬4例の経過◆
・全例が術後1.5〜2.5日で血糖値が正常化し、無事に退院した
・全例の血糖値が200日を超えて参照値範囲内を保った
・1例は246日目に低血糖に陥った
・その後病状の悪化に伴い673日目に安楽死となった
・1例は1028日目に安楽死となった
・その理由はインスリノーマとは関連性がなかった
・残り2例は564日目、1211日目まで血糖値は参照値範囲内で推移した(論文執筆時点まで到達している)
・診断日から数えた生存期間は599〜1232 日であった
・転移の確認と病期分類が難しかった
上記のことから、腹腔鏡手術は犬のインスリノーマを治療する有効な手段だと言える。よって、今後、転移の可能性と病期分類を可能にする検査法・診断法と組み合わせた、転移病巣への対処法や腹腔鏡手術を適応すべきではない症例の判別法が考案され、当該疾患の管理が高精度化することを期待している。
参考ページ:
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2023.1278218/full