①炎症を伴った慢性腸症と②消化管型リンパ腫は、猫に良く見られる消化器疾患であり、これらの疾患の発症に腸内細菌叢の乱れが関与していると言われている。しかし、その関連性(メカニズム)は詳しく分かっていないのが現状である。一方、話は変わるが、腸内細菌がトリプトファンを利用して生み出す代謝産物は腸粘膜のバリア機能を調節し、炎症に関わっているとされているのだ。つまり、トリプトファンの代謝経路を追跡することで、①や②の発症メカニズムを解明できるかも知れないのである。
冒頭のような背景の中、アメリカの獣医科大学らは、③臨床上健康な猫と①または②を抱える猫100匹以上を対象にして、彼らの血清サンプルに含まれるトリプトファン、および、その異化産物(ページ下部の画像に添付した文章をご参照下さい)の濃度を測定する研究を行った。すると、以下に示す事項が明らかになったという。
◆①または②を抱える猫におけるトリプトファンの代謝◆
・③に比べて①②のトリプトファン、インドールプロピオン酸、インドールアクリル酸、インドールアルデヒド、インドールピルビン酸、インドール乳酸の濃度は有意に低かった
・③に比べて①②のトリプトファン異化産物の濃度は有意に低くかった
・①に比べて②で異化産物の一つであるインドール乳酸濃度が有意に低かった
・異化産物とコバラミン、葉酸、fPLI、fTLIの数値に相関関係があった
上記のことから、トリプトファンと異化産物の濃度は①②③で異なることが窺える。また、その濃度の変動は、消化器の炎症に関連していることも示唆された。よって、今後、この変動の臨床的意義について研究が進み、猫の消化器疾患に対する新たな診断法(トリプトファンや異化産物がバイオマーカーになり得る)や治療法が開発されることを期待している。
参考ページ:
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38200798/