新型コロナウイルス感染症に効果を発揮する抗ウイルス薬レムデシビル、および、レムデシビルが動物の体内で変換されたGS-441524は、猫を致死的経過に貶める伝染性腹膜炎(feline infectious peritonitis、FIP)に有効だと言われている。しかし、その有効性を主張する研究の殆どにおいて、正規ルートで入手した薬剤は使用されておらず、未認可であったり、ラベル記載された組成が誤っていたりと、とうてい一次診療施設で実践できる状況ではないのが現状のなのである。つまり、レムデシビル(またはGS-441524)療法を、小動物臨床に携わる獣医師が実践できる手法に落とし込むことが課題となっているのだ。
冒頭のような背景の中、イギリスおよびオーストラリアの大学・動物病院らは、自国で認可を受けており、且つ、動物用としてリリースされているレムデシビルおよびGS-441524を正規ルートで入手し、FIPと診断された猫300匹以上に投与する研究を行った。なお、同研究では、レムデシビル単独、GS-441524単独、両剤併用の3つのプロトコルが採用されており、それぞれ約34%、約10%、約56%の症例に適応している。すると、以下に示す事項が明らかになったという。
◆正規ルートで入手したレムデシビルまたはGS-441524を投与されたFIPの猫300匹以上の転帰 ◆
・初回治療の期間は中央値で84日(1〜330日)であった
・治療開始からの経過を追跡した期間は中央値で248日(1〜814日)であった
・最も一般的な副作用は注射部位の痛みであった(レムデシビルを皮下注射した症例の約48%)
・約5%の症例が初回治療中に再発した
・約6% の症例が初回治療後に再発した
・経過を追跡した期間において約84%の症例が生存していた
・治療開始から30日以内に完全に回復した症例は「そうではない」症例に比べて治療終了時に生存している可能性が大幅に高かった
上記のことから、正規ルートで入手したレムデシビルまたはGS-441524はFIPに有効であると考えられる。よって、今後、理想的な治療プロトコル、再発・死亡と関連したファクターの有無について議論され、FIPが根治を望める感染症になることを願っている。

本研究では、約半数の症例で腹水が認められ、約14%に神経症状が発現したとのことです。
参考ページ:
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1098612X231194460


